研究課題/領域番号 |
19K07515
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研究機関 | 順天堂大学 |
研究代表者 |
能登 大介 順天堂大学, 医学部, 准教授 (10598840)
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研究分担者 |
三宅 幸子 順天堂大学, 医学部, 教授 (50266045)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 多発性硬化症 / 脱髄 / B細胞 / オリゴデンドロサイト / 再髄鞘化 |
研究実績の概要 |
中枢性炎症性脱髄疾患である多発性硬化症 (multiple sclerosis: MS)は、T細胞を中心とした自己免疫機序が関与するが、脱髄巣での再髄鞘化障害の存在が知られ、その機序は不明である。我々は腸内環境と中枢神経系 (central nervous system: CNS)との関連を研究する過程で、マウスに抗生剤を経口投与することで、CNSにおける免疫グロブリン遺伝子と髄鞘関連遺伝子の発現が変化すること、またB細胞欠損マウスではcuprizone誘導性脱髄が軽減することを見出した。二次性進行型MSではT細胞のCNSへの浸潤を阻害しても治療効果がなく、髄膜に胚中心を伴う異所性リンパ組織が形成され、B細胞が髄腔内で免疫グロブリン産生することが知られている。そこで本研究ではMSにおける再髄鞘化障害にB細胞が関与しているとする仮説を立て、CNSの脱髄モデルや試験管内モデルを用いてMSにおける未知の再髄鞘化障害機序を明らかにする。上記目的を達成するため、これまでの解析により脱髄誘導脳切片培養系の再髄鞘化過程において、免疫グロブリン、特にIgA、IgMを添加することで有意に再髄鞘化が促進されることが明らかとなった。本年度の解析では、B6マウスにMS動物モデルである実験的自己免疫性脳脊髄炎(EAE)の慢性期においても髄膜下にB細胞が比較的多く残存していることが明らかとなり、慢性炎症病態とB細胞との関連が示唆された。また、前年度に確立した、神経-オリゴデンドロサイト前駆細胞(oligodendrocyte precursor cells: OPC)共培養系を用い、B細胞がOPCの分化と髄鞘化に与える影響の解析を試みたが、安定した解析結果が得られなかったため、マイクロファイバーを用いた髄鞘化解析方法の導入を試み、比較的安定したOPC-マイクロファイバー培養系を確立した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
前年度、我々は脱髄誘導脳切片培養系に免疫グロブリンを添加することで、免疫グロブリン、特にIgA、IgMが有意に再髄鞘化を促進することを明らかにした。また、マウス脳よりオリゴデンドロサイト前駆細胞(oligodendrocyte precursor cells: OPC)を単離し、神経細胞と共培養することで、試験管内での髄鞘化誘導系を確立した。本年度は、前年度確立した神経-OPC共培養系を用い、B細胞がOPCの分化と髄鞘化に与える影響の解析を試みたが、共培養により神経細胞の状態が不安定となり、安定した解析結果が得られなかった。そのため、神経細胞非依存性にOPCの分化、髄鞘化を定量化するためにマイクロファイバーを用いた髄鞘化解析方法の導入を試みた。数種類のファイバーを試した結果、比較的安定した培養系が得られたため、今後、前述のB細胞分画および培養上清をOPC-マイクロファイバー培養系に添加することで、Bまた、B6マウスにMS動物モデルである実験的自己免疫性脳脊髄炎(EAE)を誘導し慢性期に病理組織学的解析をおこなったところ、慢性期においても髄膜下にB細胞が比較的多く残存していることが明らかとなった。今後、慢性期EAEで見られるB細胞について、フローサイトメトリー法や免疫組織学的手法を用いた解析を行う予定である。上記の培養系の確立に予想以上に時間がかかっており、進捗状況としてはやや遅れている状況である。
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今後の研究の推進方策 |
上記の結果から、免疫グロブリンは再髄鞘化を促進する可能性が示唆されたが、B細胞と脳切片培養の共培養系では期待された結果が得られなかった。B細胞の活性化状態が変化することで、髄鞘に与える影響が変化する可能性を考慮し、今後、髄鞘構成蛋白質であるMOGにより免疫されたマウスから、B細胞分化を単離し脱髄に与える影響の解析を行う。また、本年度の解析によりEAE慢性期の病変において髄膜下のB細胞の集簇が明らかとなったため、次年度以降、B細胞集族とOPC、成熟オリゴデンドロサイトの動態について病理学的に観察するとともに、集簇しているB細胞についてフローサイトメトリー法や免疫組織学的手法による解析を行っていく。さらに病的B細胞を同定し、トランスクリプトーム/プロテオーム解析を行うことで脱髄、再髄鞘化に影響を与えうる分子のスクリーニングを行う。また同定された分子について、マウスモデルでの解析や、ヒトMS患者末梢血における発現解析を行う。また候補遺伝子について、特異的なsiRNAを作成し、Cuprizone誘発脱髄モデル、EAEなどを用いて病態への影響について解析を行うとともに、最終的にはノックアウトマウスの作成を行い、生体内での機能と再髄鞘化障害に与える影響の解明を目指す。
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