研究課題/領域番号 |
19K07516
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研究機関 | 東邦大学 |
研究代表者 |
山崎 創 東邦大学, 医学部, 准教授 (70315084)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | JunB / ヘルパーT細胞 / 大腸炎 |
研究実績の概要 |
ヘルパーT細胞は免疫応答の制御に不可欠である。我々はこれまでに、AP-1転写因子の1つであるJunBがTh17細胞の分化に必須であることを示してきた。実際、JunBをT細胞特異的に欠損するマウスは、Th17細胞を主な責任細胞とする複数の病態モデルに対して耐性化する。ところが最近我々は、自然免疫応答が病態形成に重要な役割を果たすデキストラン硫酸ナトリウム (DSS)誘導性大腸炎モデルにおいては、このマウスの症状が逆に増悪化することを見出した。このマウスでは制御性T細胞 (Treg細胞)の数が有意に減少しており、その分化障害はIL-2シグナルの低下に起因することが明らかになった。JunB欠損マウス由来のナイーブCD4陽性T細胞は、高濃度のIL-2を添加しないとTGF-β添加によるin vitroでのTregへの分化誘導の効率が低下しており、これは、IL-2受容体のαサブユニット (CD25) の発現障害と自身のIL-2産生低下のためであることが判明した。また、JunB欠損マウスにIL-2を投与したところ、Treg細胞数が増加し、DSS誘導性大腸炎の症状も軽減されたことから、このマウスにおける大腸炎の悪化は、IL-2シグナルの低下に起因したTreg細胞分化障害のためであることが支持された。さらに、JunB欠損マウスのT細胞について詳細な検討をおこなったところ、Treg細胞数が減少しているだけでなく、強い免疫抑制能を持つエフェクターTreg細胞の割合が低下していることが明らかになった。このマウスでは免疫抑制能が低下しているが、病原性T細胞も同時に欠損しているため、自己免疫疾患を免れていると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画通りに実験が進行し、学会発表のほか、論文としてまとめ学術雑誌に発表することができた。
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今後の研究の推進方策 |
Treg細胞への分化過程における遺伝子発現プロファイルの形成にJunBがどのように関与しているかを明らかにする。まず、CD4陽性細胞特異的にJunBを欠損するマウスおよび同腹コントロールマウスから調製したナイーブCD4陽性T細胞をin vitroでTreg細胞に分化誘導し、トランスクリプトーム解析をおこなう。Treg細胞の分化時に発現が誘導される遺伝子の中には、Foxp3によって発現が誘導されるものがあるため、抗IL-2抗体の存在下に分化誘導をおこなってその二次的な影響を排除した条件下で実施する。高感受性IL-2受容体サブユニットであるCD25をコードするIl2ra遺伝子については、この条件下でもJunBの欠損によって発現が低下することや、JunBがプロモーターに結合して直接発現を調節することをすでに確認している。 次に、同定されたJunBの標的遺伝子の機能に着目しつつ、Treg細胞の機能調節におけるJunBの役割を検討する。CD4陽性細胞特異的JunB欠損マウスおよび同腹コントロールマウスに、実験的自己免疫性脳脊髄炎 (experimental autoimmune encephalomyelitis, EAE)や、T細胞受容体を活性化するアゴニスト抗体誘導性の小腸炎モデルおよびDSS誘導性大腸炎モデルを誘導し、それぞれの病態で標的組織へのTreg細胞の浸潤能や表面分子の発現を解析する。また、in vitroで分化させたTreg細胞や組織から単離したTreg細胞について増殖抑制アッセイによる機能評価もおこなう。
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次年度使用額が生じた理由 |
キャンペーンを利用するなどして今年度の支出を抑え、次年度の網羅的遺伝子発現解析の受託サービス、フローサイトメトリー解析用の抗体購入などの消耗品購入、および遺伝子改変マウスの維持費に充てる。
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