研究課題
消化管の粘膜固有層に常在するヘルパーT細胞は、腸管における病原微生物からの宿主防御応答だけでなく、自己免疫疾患などの全身性の免疫応答の制御に重要である。我々はこれまでに、AP-1転写因子の1つであるJunBが、IL-17産生性のヘルパーT細胞 (Th17細胞)および、制御性T細胞 (Treg細胞)の分化に必要であることを示してきた。ヘルパーT細胞で特異的にJunBを欠損するマウスでは、Th17細胞を責任細胞とする実験的自己免疫性脳脊髄炎 (experimental autoimmune encephalomyelitis, EAE)に対して耐性化する一方で、自然免疫応答によって病態が誘導されるデキストラン硫酸ナトリウム (dextran sulfate sodium, DSS)誘導性大腸炎の症状が悪化する。DSS誘導性大腸炎の増悪化は、Treg細胞の分化不全に起因していると考えられた。このJunB変異マウスでは、T細胞からのIL-2の産生が減少していることに加え、T細胞における高感度IL-2受容体 (IL-2受容体鎖, CD25)の発現も低下していることから、Treg細胞の分化不全はIL-2シグナルの低下によるものであることが明らかになった。このマウスにIL-2と抗IL-2抗体の複合体 (IL-2の単体投与に比べ、生体内での安定性が増し、Tregの誘導活性が高い)を投与したところ、Treg細胞の数が増加しDSS誘導性大腸炎の症状も軽減した。さらに、このマウスのTreg細胞について詳細な解析をおこなったところ、強い免疫抑制活性を持つエフェクターTreg細胞の割合が低下しており、Treg細胞が放出する重要なサイトカインであるIL-10の産生にも変化が認められた。
2: おおむね順調に進展している
当初の計画通りに研究が進捗し、学術雑誌で発表した成果に基づいてさらに発展している。
ヘルパーT細胞で特異的にJunBを欠損するマウスでは、Th17細胞やTreg細胞から放出されるサイトカインのバランスが変動しているため、そのシグナルを受容する腸上皮細胞の機能が変化している可能性が予想される。そこで、このマウス由来の腸上皮細胞について網羅的なトランスクリプトーム解析をおこない、発現変動遺伝子を同定し、腸上皮におけるそれらの遺伝子の機能を解析する。また、腸上皮細胞の機能変化に伴って腸内細菌叢が変化している可能性もあるため、糞便中や腸管組織に検出される細菌DNAの解析を実施する。特に、小腸に特徴的でTh17細胞の分化を促進するsegmented filamentous bacteria (SFB)のレベルが変化している可能性に着目して解析を進め、Th17細胞の分化とSFBの増殖との関係を明らかにする。
キャンペーンを利用するなどして今年度の支出を抑えた。次年度の消耗品購入に充てる。
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