研究課題
日和見感染症のトキソプラズマ症は細胞内寄生原虫であるトキソプラズマの感染により引き起こされ、全世界の約三分の一がこの原虫に感染している。トキソプラズマ症は人獣共通寄生虫症であり、世界的に新株や強毒株、薬剤耐性株の存在が判明している。しかし、島国である本邦におけるヒトに感染するトキソプラズマに関する分子疫学情報(遺伝子型・全ゲノム配列・病原性・薬剤耐性の原因変異等)は未解明のまま残されている。この研究の目的は、本邦におけるトキソプラズマ症の分子疫学情報を整備し、さらに病歴情報と照合することで病原性に関与する株間の遺伝子変異を特定することにある。今年度の実績を以下に列記する。1.トキソプラズマ患者から分離した株をインターフェロンガンマノックアウトマウス由来胎児繊維芽細胞やベロ細胞に接種し限界希釈法でトキソプラズマのクローンを2株作成した。2.全国からトキソプラズマ症の診断目的で送付されてきた臨床検体(羊水、髄液、末梢血、脳組織、臍帯、等)から、DNAを抽出しPCR法でトキソプラズマ遺伝子が陽性と判断された検体をインターフェロンガンマノックアウトマウスの腹腔内や経口的に感染させ、株の樹立を図った。3.過去にPCR法でトキソプラズマ陽性と判断された臨床検体を順次、各種のプライマーを使用して遺伝子型の分析をしている。さらにそれらの遺伝子型と病歴・臨床経過を比較・照合し、病原性に関与する遺伝子情報の研究基盤を構築しつつある。
3: やや遅れている
1.臨床株からの限界希釈法によるクローンの確立に時間がかかった。2.臨床株から樹立したトキソプラズマの数クローンの全ゲノム配列をPackBio RS II/Sequelで解析しようとしたが、機器の故障により現在までに解析ができていない。3.インターフェロンノックアウトマウスに腹腔内や経口接種したが、まだ株の樹立にまでは至っていない。
PackBio RS II/Sequelの修理が終わったら直ちに既に確立したクローンを用いて全ゲノムの解読を予定している。引き続き今年度と同様に次年度以降も、全国から送付されてくるトキソプラズマ感染が疑われる患者の臨床検体から、PCR法でその遺伝子の有無を解析し、遺伝子が確認された検体はインターフェロンガンマノックアウトマウスに接種したりin vitroで培養し、患者個別の株を樹立し、その病歴と照合することにより、病原性・薬剤耐性等を解析する。
次年度使用学が生じた理由は以下の3点が原因である。1.全ゲノム分析の解析機器(PackBio II)が故障して、解析が困難に陥った。2.過去の陽性検体のゲノム分析に技術的な問題が起きた。3.全国からのトキソプラズマ患者のPCR検査要請が例年より少なかった。翌年度として請求した助成金と合わせた仕様計画は以下の通りである。1.全ゲノム分析機のPackBioIIが解析可能となった時点で既に患者より分離したクローン株の解析を行う。2.トキソプラズマが陽性となった検体から、様々なプライマーを使用して遺伝子型の分類を行う。
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