我々は自然界に微量しか存在しない希少糖の一種であるD-アロースが、マラリア原虫の赤血球内発育ステージの増殖には影響を及ぼさず、ハマダラカ体内での発育ステージのみを特異的に阻害することを見出しているが、その作用機序は明らかになっていない。本研究ではマラリア原虫、ハマダラカ、ハマダラカ中腸内細菌という3つの生物・細胞について、希少糖の取込み、代謝・変換、代謝産物による原虫発育への作用を調べることで、D-アロースが蚊体内発育ステージ特異的に原虫発育を抑制する機序を明らかにすることを目的とした。本研究の成果はマラリア原虫の糖代謝系への干渉に基づく新規抗マラリア薬の開発に途を開くものである。 ネズミマラリア原虫ヘキソーストランスポーター(PbHT)のトランスポーター活性を評価する実験系を構築するために、アフリカツメガエルの卵母細胞での組換えタンパク発現を試みた。PbHTの遺伝子配列を元にして、アフリカツメガエル卵母細胞での発現に最適化した人工遺伝子を合成し、試験管内でRNAへ転写させたPbHT-cRNAを卵母細胞にマイクロインジェクションした。インジェクション後の卵母細胞についてウェスタンブロッティングによりPbHTの発現を確認した。次にマイクロインジェクション後の卵母細胞の薄切標本を作成して免疫染色を行い、卵母細胞におけるPbHTの発現部位を検討したところ、卵母細胞の細胞膜にPbHTが発現していることが確認された。これにより今後、トランスポーター活性評価実験、希少糖によるトランスポーター活性阻害実験へと進むこと可能となった。 ハマダラカに希少糖D-アロース含有糖液を与えてホモジネートを調製してHPLC分析を行った結果、D-アロースのシグナルは検出されたが、6リン酸化体は検出されなかった。この結果により、蚊体内での抗原虫作用にはD-アロースの代謝産物は関与していないことが示唆された。
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