研究課題
Trypanosoma cruziはシャーガス病を引起す寄生原虫で、その生活環において、媒介昆虫内(EPI)、血流中(TRP)、細胞内(AMA)の3つのステージに大きく分けられる。臨床的に重要なのはAMAであるが、大量培養系が確立されておらず解析が困難である事から、特に研究が進んでおらず、AMAで用いられる炭素源やエネルギー代謝における各細胞小器官の役割など、基礎的な情報すら未だ不明である。本研究の最終目的は、寄生現象を支えるエネルギー代謝の生理的役割を解明することである。2020年度では、ATPのバイオセンサーとして開発されたATeamをミトコンドリア、グリコソーム、細胞質それぞれに発現させた各種組換原虫の解析を進めた。グリコソーム局在ATeam原虫では、グリコソームに局在を示唆するシグナルが得られたが、強度が不十分であった。細胞質に局在するATeam原虫では、ATeamが凝集してしまい、細胞質への局在が確認できなかった。また、ミトコンドリアに局在させたATeam原虫では、ATeam自体の発現が確認されなかった。また、空ベクターを形質転換させた原虫と比較して、各種組換え原虫の増殖が遅くなった。一方、大腸菌で発現させた組換えATeamに関しては、細胞質型とグリコソーム型のATeamの精製を行い、ATP結合によるFRETシグナルに変化がないことが確認できた。今回、T. cruzi原虫でATeamの発現自体が毒性を示す事が明らかとなり、そのため、FRETとは異なる原理を持つMaLionR/Gといった、ほかのATPバイオセンサーを用いて組換え原虫を作成し、解析を試みる。
3: やや遅れている
昨年度は、ATeamの発現を安定する条件や、原虫に対するAteam自体の毒性を減らすために発現用プラスミドの変更や、セレクション条件を検討したが、Ateam発現原虫の改善が見られなかった。そのため、ATeamではなくMaLionR/Gを用いたATPセンサーを発現する原虫の構築を最初から開始したため、当初の予定よりは「やや遅れている」と判断した。
ATeamを安定に発現させた原虫の構築が毒性により得られなかったため、今後はFRETとは異なる原理をもつMaLionR/Gを用いて研究をすすめる。MaLionは「Monitoring ATP Level Intensity-based turn-on indicators」と呼ばれ、ATPが結合することにより赤色(MaLionR)または緑色(MaLionG)の蛍光を示す。ATeamと比較し、分子量が小さいうえに、シグナルの変化が高いため、感度も上がる。また、ATP加水分解活性は持っておらず、ATPが結合することによって蛍光を発するturn-onセンサーである。これまでには、ヒト細胞及び植物細胞でMaLionR/Gを用いたATP動態の研究が報告されており、原虫の解析に用いるのは本研究が初めての試みである。T. cruziを用いてMaLionR/Gの発現と解析方法はこれまでと同じように、グリコソーム・細胞質・ミトコンドリアの各細胞区画に局在するMaLionを発現させた原虫の構築を試みる。MaLion原虫を作成し、様々な炭素源を用いて各細胞区画におけるATPを可視化し、ATP動態を解析する。また、原虫を分化させ個々の生活環ステージ原虫におけるATP動態も解析する。
すべて 2021 2020
すべて 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 2件、 査読あり 3件、 オープンアクセス 2件)
Biochimica et Biophysica Acta (BBA) - Bioenergetics
巻: 1862 ページ: 148356~148356
10.1016/j.bbabio.2020.148356
Biochim Biophys Acta Bioenerg
巻: 1861(11) ページ: 148283(1-12)
10.1016/j.bbabio.2020.148283
Genes (Basel)
巻: 11(12) ページ: 1468(1-18)
10.3390/genes11121468.