マラリア原虫に対する防御免疫が成立しにくい理由の一つとして、T細胞応答の低下が報告されている。我々は、以前に、糖尿病治療薬メトホルミンには赤内型マラリア原虫排除促進作用(感染2週間目以降)、さらに再感染防御増強作用があることを明らかにした。そこで本研究では、メトホルミンがマラリア原虫特異的T細胞の活性化、記憶細胞分化、維持、二次応答を増強すると仮説を立て、その仮説を立証するとともにそのメカニズムを明らかにしようと試みた。 B6マウスにマラリア原虫を感染させ、感染中(7、12、18日目)から自然治癒後(30日以降)、脾細胞を回収しT細胞について解析した。CD4T細胞およびCD8T細胞の活性化や分化は、細胞表面マーカーの発現を指標にしてフローサイトメトリーを用いて調べた。T細胞は感染後増加し、7日をピークに減少し、12日目には非感染マウスよりも減少した。この細胞数減少に対してメトホルミンはほとんど影響を及ぼさなかったが、メトホルミンは感染18日目で抗原特異的活性化T細胞をセントラルメモリーT細胞よりエフェクターT細胞およびエフェクターメモリーT細胞へ分化させた。 メトホルミンはAMPKのアクティベータとして知られているが、マラリア感染の際はT細胞のAMPKのリン酸化を促進しなかった。一方でメトホルミンは、エフェクターT細胞分化、増殖、生存に関わることが報告されているS6のリン酸化を促進した。このことからメトホルミンはマラリア感染マウスのT細胞のS6のリン酸化を促進することで、エフェクターT細胞やエフェクターメモリーT細胞の増殖や生存を促す可能性が示唆された。 さらに、B6マウスにマラリア原虫特異的TCR組換えCD8T(PbT-I細胞)およびCD4T(PbT-II細胞)を受身移入しマラリア原虫を感染させ、感染後のPbT-I細胞およびPbT-II細胞を調べることで上記の結果を裏付けた。
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