マラリア感染に対する免疫記憶が維持されにくいことはよく知られているものの、その機序についてはよくわかっていない。これまでに我々は、マウスモデルを用いた実験結果から、本原虫感染により抑制因子IL-27を産生する新規抑制性T細胞Tr27が誘導されることを証明してきた。また、IL-27依存的にCD4陽性T細胞が細胞死する事実を明らかにしたが、その機序については不明なままであった。 マラリア原虫は宿主の赤血球を破壊しながら増殖することから、宿主は重度の溶血性貧血に陥る。すなわち、本原虫感染により多量の赤血球内成分が血中に放出されることを意味している。赤血球内や赤血球膜には、ATPやTLRなど免疫を修飾する成分が複数含まれており、近年少しずつその役割について明らかになりつつある。我々は、溶血性貧血がマラリア原虫感染時におけるCD4陽性細胞の免疫記憶抑制に関与していると仮説を立て、薬剤(フェニルヒドラジン)投与による溶血性貧血を引き起こしたマウスを解析した。薬剤投与後の経時的観察の結果、ヘマトクリット値の低下とともに、脾細胞数は増加するもののCD4陽性細胞数のみ減少した。また、CD4陽性細胞中のアポトーシスについて確認したところ、AnnexinV陽性7-AAD陽性細胞の割合の亢進、およびCaspase-3の活性化が確認できた。しかしながら、アポトーシスの制御に関わるBcl-2については有意な差を認めることができなかった。 以上のことから、マラリア原虫感染により引き起こされる溶血性貧血がCD4陽性細胞における細胞死のトリガーとなっている可能性が示唆された。現在は、溶血性貧血とIL-27との関係について、in vitroおよび in vivoで解析中である。
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