研究課題
マラリアは今もなお年間2億人が感染し、50万人もの死者を出す世界最大規模の感染症である。マラリアのコントロールのためにはマラリアの病態を詳細に理解する必要があり、これまでにもマラリア患者の解析やマウスモデルを使った実験的アプローチで多くの知見が集積されてきた。しかし、ヒトとマウスで共通してマラリアの病態や防御に重要な分子はあまり知られていない。本研究では、マラリア患者の血漿を網羅的に解析し、重症化因子と防御因子の候補を抽出し、これらの候補分子の関与をマウスモデルで検討することを目的とする。今年度は、ヒトにおける脳マラリアに関する宿主の重症化因子検索を行った。既存の脳マラリア患者、非脳マラリア患者、健常者の血清サンプル中の106種の宿主タンパク質を、HQ-PLEX法という蛍光ビーズとフローサイトメーターを用いる方法で網羅的に定量した。多くのタンパク質が感染により著しく増加、あるいは減少していることがわかり、マラリアによる炎症の強力さが見て取れた。その中でも、脳マラリア患者血清中で増加し、軽症患者や健常者で変化しない28のタンパク質を同定した。これらのいずれもが、脳マラリア患者の治療後の血清中では元のレベルに戻ることも確認でき、重症化因子あるいは脳マラリアのバイオマーカー候補であることを見出した。この情報を共有し、これまでに報告されていない分子2種類について、CRISPR/Cas9のシステムを用いて遺伝子改変マウスの作成を行い、ファウンダーを得た。
2: おおむね順調に進展している
今年度は、候補分子の検索として、重症脳マラリア患者と軽症マラリア患者の病期と回復期、さらに健常者の血漿を用いて、主要な免疫分子を含む100以上の分子を網羅的に定量した。その結果、重症でのみ増加するものを重症化因子、軽症でのみ増加を認めるものを防御因子としてリストアップすることができた。さらにはこれまで脳マラリアとの関与が知られていなかった分子も見いだすことができ、それらに関してはその役割を知るためのノックアウトまで得ることができた。
当初の予定通り、マウスモデルでの重症化因子の解析を行う。C57BL/6(B6)マウスにマラリア原虫Plasmodium berghei ANKA株(PbA)を感染させると、ほとんどのマウスが感染後7~9日と原虫がそれほど増加していない早期に中枢神経症状を呈して死に至り、脳血管の感染赤血球による閉塞も見られることから脳マラリアのモデルとなる。PbA感染B6マウスから経時的に血液を採取し、実際にヒトと同様に候補因子が増加するのかをELISA法にて確認する。重症化因子欠損マウスでの感染実験重症化因子を遺伝的に欠損するマウスにPbAを感染させ脳マラリアを発症するかどうかを検討することで、さらにこれらの因子の関与を確定する。現在、3種類の遺伝子欠損マウスを取得済みで、今後2種も作成予定である。
今年度の計画の全てが、既存のサンプルを用いて行うことができたため、試料採取が不要であった。また、試薬等は他の研究費で準備したものの残余分を用いることができた。以上の理由から、本助成金からの支出が必要なく行えた。
すべて 2020 2019 その他
すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (5件) (うち国際共著 2件、 査読あり 5件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (2件) (うち国際学会 2件)
Parasitology International.
巻: 76 ページ: 記載なし
doi: 10.1016/j.parint.2020.102057.
Parasite Immunology.
巻: 記載なし ページ: 記載なし
doi: 10.111/pim/12700.
doi: 10.1016/j.parint.2019.102034.
Infection and Immunity
巻: 87 ページ: 記載なし
doi: 10.1128/IAI.00042-19
Frontiers in Immunology
巻: 10 ページ: 記載なし
doi: 10.3398/fimmu.2019.02207.