研究課題/領域番号 |
19K07530
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研究機関 | 国立感染症研究所 |
研究代表者 |
久枝 一 国立感染症研究所, 寄生動物部, 部長 (50243689)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 脳マラリア / MPO / バイオマーカー |
研究実績の概要 |
マラリアは今もなお2億人が感染し、50万人もの死者を出す世界最大規模の感染症である。マラリアのコントロールのためにはマラリアの病態を詳細に理解する必要があり、これまでにもマラリア患者の解析やマウスモデルを使った実験的アプローチで多くの知見が集積されてきた。しかし、ヒトとマウスで共通してマラリアの病態や防御に重要な分子はあまり知られていない。本研究では、マラリア患者の血液サンプルを網羅的に解析し、重症化因子と防御因子を抽出し、これらの候補分子の関与をマウスモデルで検討することを目的とする。 これまでに、ヒトにおける重症マラリアである脳マラリアに関する宿主因子の網羅的解析を行い、脳マラリア患者でのみ増加し、非脳マラリア患者や脳マラリアの治療後には低値を示す28種のタンパク質を重症化因子の候補としてリストアップした。昨年度の報告では、候補者リストの中でもっとも変動が大きかったミエロペルオキダーゼ(MPO)について、MPOは脳マラリアの発症にはほとんど関与せず、良いバイオマーカーになりうることを示した。しかし、感染量などを最適化することで、MPO欠損マウスでは脳マラリアの発症が見られないことが確認でき、この分子の脳マラリア発症への関与を明らかにした。 他の重症化因子として、TSLP, IL-33, IL-28Aの関与についても、新たに作成した遺伝子欠損マウスを用いて検討した。いずれの変異マウスも、野生型マウスと同様に脳マラリアを発症した。TSLPとIL-33に関しては、野生型マウスにおいて感染に伴って増加するが、IL-28Aに関しては、感染マウスでも検出できなかった。以上のことから、TSLPとIL-33は脳マラリアのバイオマーカーになりうるが、病態への関与は乏しいこと、IL-28Aに関しては脳マラリアとの関連性はないことが示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
マラリア患者から得られた情報を元に、4つの分子について、マウスモデルで検証することができた。そのうちMPOの脳マラリア発症への関与も明らかにできた。現在、MPOのマラリア発症メカニズムについて検討するとともに、新たな分子としてIL-34とFgf-1の欠損マウスを作成し、それらの関与も検討中である。 以上のように、脳マラリア発症に関わる分子を少なくとも一つは特定でき、3つについては否定することができ、予想通りの進捗である。
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今後の研究の推進方策 |
脳マラリアの関与が示された分子であるMPOがどのようにして脳マラリアの発症に関わるのかを、詳細に検討する。さらには、リストアップした他の分子の、すでに2種類の新規遺伝子欠損マウスをえており、これら関与についても検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究は計画通り行ったが、主たる実験材料は遺伝子欠損マウスであり、飼育費以外の支出が少なく抑えられた。必要な試薬や実験器具は前年度まで購入したもので賄えたこともあり、次年度使用額が生じた。 今年度は、計画通りに進めるとともに、業績の発表のために使用する予定である。
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