研究課題
ピロリ菌はcagA遺伝子の有無によりcagA陽性株とcagA陰性株に大別されるが、cagA陽性ピロリ菌の慢性感染は胃癌発症の最大の危険因子となる。ピロリ菌の菌体内で産生されたCagA蛋白質は、菌が保有するIV型分泌機構を介して胃上皮細胞内に注入される。CagAは胃上皮細胞内の様々な蛋白質に結合することで、癌化を促す細胞増殖などのシグナル伝達に異常をきたすことが知られている。しかしながら、生じた胃癌細胞の癌形質維持にCagAはもはや不要であり、細胞癌化の過程でCagA依存的な癌前駆細胞がCagA非依存性を獲得する機序は不明であった。そこで、癌はゲノム異常に起因することから、細胞内に侵入したCagAが宿主細胞ゲノムに障害を与える可能性を検討した。その結果、CagAが極性制御キナーゼPAR1bとの結合を介して、宿主ゲノムに重篤なDNA損傷であるDNA二本鎖切断(DSB)を誘発することを見出した。また、CagA陽性細胞では、核内BRCA1が著しく減少していた。その分子機序を検討したところ、BRCA1の核移行には、そのセリン残基(S616)がPAR1bによってリン酸化されることが必須であり、CagAはPAR1bを抑制することによってBRCA1の核移行を阻害した。BRCA1遺伝子は、その不活化変異が遺伝性乳癌・卵巣癌の原因となる癌抑制遺伝子であり、不活化変異によるゲノム不安定性の誘導が発癌に大きく関与する。実際に、CagAがBRCA1の核移行を阻害する結果、DNA複製フォークが不安定化されDSBが誘導された。以上の結果から、CagAはPAR1b抑制を介して胃上皮細胞に一過性BRCAnessを引き起こし、ゲノム不安定性を誘導することが示された。
すべて 2022 2021 その他
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 オープンアクセス 2件) 備考 (1件)
International Journal of Molecular Science
巻: 23 ページ: 2492
10.3390/ijms23052492.
Cell Host & Microbe
巻: 29 ページ: 941-958
10.1016/j.chom.2021.04.006.
http://www.microbiol.m.u-tokyo.ac.jp