研究課題
Beclin 1(Atg6の哺乳類オルソログ)は、栄養飢餓時に誘導される細胞内の自己成分分解機構、いわゆるオートファジーの誘導において重要な役割を担っている。実際、Beclin 1を欠失した細胞では栄養飢餓時のオートファジー誘導は著しく抑制される。一方、細菌感染時に誘導されるオートファジー(ゼノファジー)は、栄養飢餓時に誘導されるオートファジーとは異なり、標的細菌を選択的に認識・分解する機構であり、我々の先行研究から、A群レンサ球菌に対するゼノファジーの誘導にはBeclin 1が関与しないことを明らかにしている。我々は一方で、Beclin 1がA群連球菌の宿主細胞への侵入を制御していることを明らかにしているが、その詳細なメカニズムは不明であった。そこで、本研究ではBeclin 1を構成する3つの領域(BH3、CCD、ECD)をそれぞれ欠失させた細胞を用いて、本菌の侵入を制御するBeclin 1の責任領域を探索しところ、その領域がECDであることを明らかにした。また、Beclin 1 ECDはAKT/PKBによってリン酸化されることが知られているが、リン酸化されるECD内のアミノ酸残基を別のアミノ酸に置換したベクターを一過性に発現させた細胞、あるいはAKT inhibitorで処理した細胞においては、本菌の侵入が抑制された。このことから、Beclin 1はAKT/PKBによりECDがリン酸化されることでA群レンサ球菌の細胞侵入を制御していることが明らかになった。
2: おおむね順調に進展している
Beclin 1によるA群レンサ球菌の細胞侵入制御メカニズムについて重要な知見を得られたと考えており、研究初年度としては概ね順調であると言える。しかし、Beclin 1 ECDをリン酸化するAKT/PKBもまた種々のキナーゼにより活性化することから、菌の細胞付着から侵入の過程で、どのようなシグナルがどのキナーゼを活性化させているのかについて研究を進行させていく必要がある。
AKT/PKBもまたPDK2、ILK、mTOR等、種々のタンパク質の触媒によって活性化される。そのことから、これらのうち、どのタンパク質がA群レンサ球菌感染時のAKTの活性化に関与するのかを明らかにする必要がある。これまでに、複数の論文においてGAS感染後の付着・侵入過程でILKの活性化が観察されていることから、まずはILKに焦点を当て研究を進める。なお、現時点でILK1の欠失細胞を構築したため、今後はILK活性化がGASに細胞侵入に必要であるのか、そしてILKがAKTの活性化に必要であるのかを検証していく予定である。
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