研究課題/領域番号 |
19K07542
|
研究機関 | 北里大学 |
研究代表者 |
阿部 章夫 北里大学, 感染制御科学府, 教授 (50184205)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
|
キーワード | 気管支敗血症菌 / III型分泌装置 / シャペロン / エフェクター / 百日咳菌 / Bcr4 |
研究実績の概要 |
III型分泌装置は多くのグラム陰性病原菌に高度に保存されエフェクターと呼ばれる病原因子を宿主細胞内に直接注入する。III型分泌装置の基質としてエフェクターの他にトランスロコン(エフェクターの宿主移行に関与する)と分泌装置の構成因子である菌体外に突出した針状構造の構成タンパク質も含まれる。これら基質は時空間的なオーダーによって分泌されることでエフェクターの宿主内移行が完了する。分泌される基質の多くは菌体内でシャペロンと会合しており,シャペロンは菌体内での基質の安定化と分泌装置への効率的な輸送に関与している。 申請者らは,気管支敗血症菌ならびに百日咳菌に高度に保存されるシャペロン様タンパク質のBcr4に着目し研究をおこなってきた。Bcr4をコードする bcr4 遺伝子は,III型分泌装置の構成遺伝子の近傍に位置している。これまで,Bcr4欠損株ではIII型分泌装置の機能が阻害され,基質の菌体外分泌が完全にブロックされること,一方,Bcr4過剰発現株では基質の異常な分泌亢進が起きることを明らかにしてきた。 一般的に,シャペロンとその基質をコードする遺伝子は近傍に位置しており,bcr4下流にはロッドタンパク質をはじめとして,III型分泌装置の構成因子と推定されるbscI, J, K, Lが位置している。これらのことを踏まえると,Bcr4は遺伝的近傍に位置するIII型分泌装置の構成因子のシャペロンとして機能し,構成因子の菌体内での安定化とフォールディングならびに輸送に関与することが推察される。Bcr4と相互作用するタンパク質を同定するために,V5エピトープタグ で標識したBscI, BscJ, BscK, BscLを大腸菌にて大量発現させ,Hisタグを付加したBcr4を用いてプルダウン法にて解析した。その結果,Bcr4はBscIと相互作用して いることを明らかにした。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
V5エピトープを付加したBscI, BscJ, BscK, BscLを大腸菌にて発現させ,Bcr4-Hisと相互作用するBsc産物を抗V5抗体にて検出した。実験の当初,Bcr4はBscJと相互作用することを明らかにしたが,BscJはプルダウンアッセイに利用したビーズと非特異的に結合していることが明らかとなった。 そこでプルダウンアッセイの条件を変えて,さらに精査した結果,Bcr4はBscIと特異的に結合していることを明らかにした。このように当初の目的である「Bcr4と相互作用するタンパク質の同定」に成功したので,研究はおおむね順調に進展している。
|
今後の研究の推進方策 |
プルダウン法による解析より,Bcr4はBscIと相互作用することを明らかにした。気管支敗血症菌と百日咳菌のBscIはアミノ酸レベルで高い同一性を示し,III型分泌装置のなかでSctIファミリーに属している。 SctIはインナーロッドの構成タンパク質であり,このロッドは菌体外に突出する針状構造とエフェクターの菌体外輸送に関わるゲート部分を連結している。前述したようにBcr4欠損株ではIII型分泌装置の機能が阻害され,一方,過剰発現株では基質の異常な分泌亢進が認められる。 これらを 踏まえると,Bcr4はBscIから構成されるインナーロッドの形成を制御することで,III型分泌装置の活性調節に関与することが推察された。 今後はBcr4-BscIの相互作用をさらに詳細に解析することで,Bcr4の機能を検証する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス感染症拡大により,実験可能な時間が減少し,消耗品の消費が予定より少なくなったために繰越金が生じた。翌年に前年度予定していた実験 を行い,繰越金をその実験の費用に当てる。
|