Bordetella bronchiseptica (気管支敗血症菌)は,多くのグラム陰性病原菌に共通するIII型分泌システム(T3SS)を介して,エフェクターと呼ばれる病原性タンパク質を宿主細胞内に注入することが知られている。T3SSを構成するタンパク質の安定化やエフェクターのT3SS基部構造への効率的な輸送には,シャペロンと呼ばれる小さなタンパク質が必要である。我々は,これまでに気管支敗血症菌のT3SS活性を制御するBcr4と呼ばれるシャペロン様タンパク質を同定してきた。Bcr4は,他の細菌のT3SSタンパク質と強い配列類似性を示さず,その機能は未解明であった。そこで,Bcr4の機能を調べたところ,Bcr4はT3SSの活性を制御する因子であることが明らかとなった。プルダウンアッセイの結果,Bcr4はT3SSのロッドタンパク質であるBscIと相互作用することが明らかになった。Bcr4の各種変異体を用いたプルダウンアッセイとBcr4各種変異体を生産する気管支敗血症菌の分泌タンパク質のプロファイルから,Bcr4のC末端領域がBscIと相互作用することで,T3SS活性を制御することが示された。さらに,BscIを欠損させると,気管支敗血症菌からのIII型分泌タンパク質の分泌や,細胞傷害性エフェクターであるBteAの哺乳類培養細胞への移行が消失することを明らかにした。最後に,BscI は Bcr4 の非存在下では不安定であることを示した。これらの結果より,Bcr4がBscIを安定化させることでT3SSの構築をサポートしていることが示唆された。これまで,T3SSの針状構造,ポア形成因子には固有のシャペロンがそれらの安定性に関与することが示されていたが,インナーロッドタンパク質のシャペロンについては初めての報告であり,シャペロンを介してT3SSの分泌が制御される新たな発見である。
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