研究課題/領域番号 |
19K07544
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
新 幸二 慶應義塾大学, 医学部(信濃町), 准教授 (60546787)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | クレブシエラ / 腸内細菌 |
研究実績の概要 |
これまでの研究において、口腔由来のクレブシエラ菌が腸内に定着すると大腸で強いTh1細胞の活性化を引き起こすこと、活性化したTh1細胞が炎症の惹起・増悪に働くことを明らかにした。また、クレブシエラ菌の腸内への定着は腸内細菌が阻害・抑制しており、過度な炎症が起こらないように制御されていることを見出している。しかしながら、どのような腸内細菌種がクレブシエラ菌の定着阻害に関与しているのか、どのような分子メカニズムでクレブシエラ菌の腸内定着を抑えているかについては明らかになっていない。そこで本研究では、ヒト由来腸内細菌の内、クレブシエラ菌の腸内への定着を阻害している腸内細菌種を同定し、その阻害メカニズムを明らかにすることを目的として、研究を行った。 まず無菌マウスの腸内にクレブシエラ2H7株を定着し、その後健常者5人の便を経口投与し、クレブシエラ菌が腸内からどのように排除されるかを検討した。その結果、健常者5人の便すべてにおいて、投与後1週間程度で迅速にクレブシエラ菌が腸内から排除されることを確認した。このことから、健康なヒトの腸内細菌には腸内からクレブシエラ菌を排除する能力をもつ腸内細菌が存在していると考えられた。次に、5人の健常者のうち3人(F, K, I)の便から細菌株を単離し、それぞれF便由来37株、K便由来68株、I便由来43株の細菌を同定した。そこで次にこれらの単離菌のみでクレブシエラ菌が腸内から排除できるかを検討した。その結果、F便由来37株、K便由来68株投与マウスでは、便そのまま投与マウスと同様に1週間程度で迅速にクレブシエラ菌が腸内から排除された。一方でI便由来37株は、F便由来37株、K便由来68株と比較して、排除能が弱いことが分かった。このことから今後F由来37株、K便由来68株からさらに腸内のクレブシエラ菌を排除する菌の探索を行う予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
まずヒト由来腸内細菌がクレブシエラ菌を腸内から排除できるのかを検証するため、5人の健常者より提供を受けたヒト便を用いて実験を行った。まず、無菌マウスの腸内にクレブシエラ2H7株を定着させた後、5人のヒト便をそれぞれ別々のマウスに経口投与した。その後便中に排出されるクレブシエラ菌の量を経時的に測定したところ、ヒト便を投与していないマウスでは少なくとも1ヶ月以上は10乗CFU/g便を維持し続けた。しかしながら、ヒト便を投与したマウスでは徐々に便中のクレブシエラ菌量が減少し、1週間でほぼ検出できなくなる程度まで下がり、抑制された状態が3週間維持された。5人の健常者の便すべてで同じ現象が確認できたため、ヒトの腸内細菌の中には共通してクレブシエラ菌を腸内から排除する細菌が存在していることが明らかになった。 次にこれらのヒト便の中にいる腸内細菌のうちどのような細菌種がクレブシエラ菌の排除に効いているか確かめるため、5人のうち3人の便を嫌気条件下で培養し細菌株の単離・同定を試みた。その結果、健常者F便から37株、健常者K便から68株、健常者I便から43株を単離することができた。そこで、これらの単離菌のみでクレブシエラ菌の排除を行うことができるかを検討した。その結果、健常者F便由来37菌株およびK便由来68菌株を経口投与したマウスでは、迅速にクレブシエラ菌が腸内から排除されたが、I便由来43菌株を経口投与したマウスでは、F37菌やK68菌と比較して1,000倍程度も便中のクレブシエラ菌 CFUが多かった。このことから、F便やK便からはクレブシエラ菌の腸内排除を担っている腸内細菌を単離することができたが、I便からは単離が不十分であった可能性が考えられる。そこで今後はF便由来37株およびK便由来68株から腸内のクレブシエラ菌を排除する細菌種の同定を行っていく予定である。
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今後の研究の推進方策 |
F便由来37株またはK便由来68株からさらにクレブシエラ菌の排除を担っている細菌種を絞り込むため、アンピシリンやバンコマイシンなどの抗生剤を飲水投与し、クレブシエラ菌の排除が変化するかを検証する。もし特定の抗生剤でクレブシエラ菌の排除ができなくなれば、その抗生剤で死滅した細菌種がクレブシエラ菌の排除に関与している候補細菌と考えられる。そこで次に候補細菌のみを投与することでクレブシエラ菌が排除できるかを検証する。もし排除できた場合は、さらに種類を減らしどの細菌種がクレブシエラ菌の排除を担っているかを解析する。もし排除できなかった場合は、抗生剤以外に腸内細菌叢を変化させる方法として食餌の組成を変えることなどを行い、再度スクリーニングから行う。
上記の実験で明らかになったクレブシエラ菌の排除を担っている細菌種セットとクレブシエラ菌の排除ができない、または弱かった細菌セットが定着したマウスの腸内容物を単離し、トランスクリプトームおよびメタボローム解析を行う。トランスクリプトーム解析にはゲノム情報が必要なので、すべての細菌株のゲノム配列を解読する。メタボローム解析はGC/MSとLC/MSを用いて短鎖脂肪酸、胆汁酸、アミノ酸代謝物などの腸内細菌がこれまで産生することが知られている代謝物を中心に解析を行う。トランスクリプトームとメタボローム解析を統合し、どのような遺伝子、どのような代謝物がcolonization resistanceに関与しているのか推測する。もし、候補代謝物が入手可能な場合はin vivo, in vitroでクレブシエラ菌の排除、増殖抑制・殺菌ができるかを検証する。入手できない場合は候補遺伝子の欠損株を作成し、候補代謝物の減少とともにクレブシエラ菌の排除が弱くなることを検証する。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度は、メタ16Sシークエンスや細菌ゲノム解読などの次世代シークエンス費用が予定より安く行うことができたため、当初の予定から余剰分が発生した。余剰分は次年度に無菌マウス購入に当てる計画である。そのため次年度に3回行う予定だった無菌マウスを用いた有用腸内細菌のスクリーニングを5回実施できるようになり、幅広い細菌種を検討することが可能になるため、更に精度の高いスクリーニングが実施できると考えている。
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