これまでの研究において、口腔由来のクレブシエラ菌(プロテオバクテリア門に属する細菌のひとつ)が腸内に定着すると大腸で強いTh1細胞の活性化を引き起こすこと、活性化したTh1細胞が炎症の惹起・増悪に働くことを明らかにした。また、クレブシエラ菌の腸内への定着は腸内細菌が阻害・抑制しており、過度な炎症が起こらないように制御されていることを見出している。しかしながら、どのような腸内細菌種がクレブシエラ菌の定着阻害に関与しているのか、どのような分子メカニズムでクレブシエラ菌の腸内定着を抑えているかについては明らかになっていない。そこで本研究では、ヒト由来腸内細菌の内、クレブシエラ菌の腸内への定着を阻害している腸内細菌種を同定し、その阻害メカニズムを明らかにすることを目的として、研究を行った。 前年度は、ヒト健常者由来の37菌株、その37菌株から絞り込んだ18菌株を腸内に定着したクレブシエラ菌の排除を行う細菌種として同定した。そこで、今年度は18菌株によるクレブシエラ菌の排除メカニズムの解析を行った。まずクレブシエラ菌の排除能が強い18菌株と排除能が弱い37-18株を定着させたマウスの便中代謝産物の解析を行った。その結果リノール酸代謝物であるHYAやHYB、酢酸などが18菌株定着マウスで顕著に増加していた。また、18菌株と37-18株の腸内での機能の違いを遺伝子レベルで検討するため、18菌株定着マウスと37-18株定着マウスの腸内容物のメタトランスクリプトーム解析を行った。その結果、18菌株定着マウスの腸内細菌は糖代謝に関与する遺伝子群の発現が高いことが明らかになった。以上のことから、ヒト健常者便由来の18菌株はリノール酸代謝物や酢酸、糖代謝産物または栄養競合により腸内のクレブシエラ菌の排除を行なっていることが強く示唆された。
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