研究実績の概要 |
バルトネラ属細菌は血管内皮細胞に感染した後、細胞増殖を促進させて自身の増殖の場を拡大させる。前年度までに我々は、猫ひっかき病の起因菌であるBartonella henselaeから血管内皮細胞の増殖を促進させる菌由来因子BafAを同定し、この本態がグラム陰性菌の分泌装置の一つとして知られるオートトランスポーターであることを明らかにした。今年度はまずこれらの成果を論文にまとめ、2020年7月にNature Communication誌にて報告した。次に、B. henselae以外のバルトネラ属細菌から複数のBafAオルソログを同定し、これらの生理活性を比較した。B. henselae以外でヒトに病原性を示す有名なバルトネラ属細菌としては、B. quintana,とB. bacilliformisがある。これら2菌種に加え、ヒトへの感染例が報告されているB. elizabethae, B. koehlerae, B. clarridgeiae, B. grahamiiと、感染例の報告がほとんどないB. tribocorum, B. doshiaeについて、各菌のゲノム中にBafAと相同性の高い配列を有するタンパク質をコードする遺伝子を検索したところ、いずれの菌種にもB. henselae由来BafAと30%~70%のアミノ酸配列の相同性がある遺伝子が見つかった。そこでこれらの遺伝子をクローニングし、大腸菌発現系を用いて組換えタンパク質を調製して、血管内皮細胞に対する作用を調べた。その結果、B. tribocorumとB. doshiaeのBafAオルソログは血管内皮細胞に対する増殖活性を示さなかったのに対し、これら2菌種以外のBafAオルソログは細胞増殖を促進させ、VEGFR2-ERKシグナル伝達経路を活性化させることも確認できた。以上のことから、バルトネラ属のヒトに対する感染性や病原性には、BafAの生理活性の有無が関与している可能性が考えられた。
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