研究実績の概要 |
Bartonella属細菌はグラム陰性の通性細胞内寄生性細菌であり、ヒトの病原菌としてはB. henselae、B. quintana、B. bacilliformisの3菌種が有名である。これらはいずれもヒトに感染すると血管内皮細胞の増殖を促進し、血管新生を惹起する。この血管新生に直接関与する因子として、我々はBafAと命名したオートトランスポーターを同定した。BafAをコードする遺伝子はBartonella属の細菌に広く保存されているが、そのアミノ酸配列は多様性に富んでおり、菌種間における機能や活性の差異についてわかっていない。本年度は、南米高地のバルトネラ感染症であるカリオン病の原因菌B. bacilliformisに由来するBafAの性状を調べた。その結果、B. bacilliformis由来BafAもB. henselae由来のものと同様に血管内皮細胞の増殖を促進させ、その分子機序としてはヒト血管内皮増殖因子(VEGF)の受容体の一つであるVEGFR2を介した細胞内シグナル伝達経路を活性化させることを突き止めた。ただし、その活性の強さはB. henselae由来BafAよりも弱く、この要因はVEGFR2への結合親和性の低さであることを明らかにした。これらの成果は2022年4月にmSphere誌に公開された。また、B. bacilliformisに加え、昨年度性状解析を行ったB. elizabethae, B. koehlerae, B. clarridgeiae, B. grahamii, B. doshiae由来のBafAファミリータンパク質についても、現在論文投稿中である。これまで調べたBafAファミリーはいずれもVEGFR2シグナルを介して作用するが、その結合様式はわかっていない。今後、BafAがどのようにしてVEGFR2を認識し活性化するのか、各種変異体の作製や構造生物学的な手法を用いて解析を進めて行く予定である。
|