ヘリコバクタースイス (H. suis)は、人畜共通感染症の原因菌であり、感染後の胃粘膜に浸潤したB細胞から産生されるIFN-γによって、胃MALTリンパ腫が形成される。近年、PD-L1ならびにPD-1に代表される免疫チェックポイント関連遺伝子が注目されており、腫瘍組織においては、IFN-γの刺激により高発現するPD-L1遺伝子とT細胞上に発現するPD-1との相互作用により、T細胞シグナルの抑制により腫瘍の形成維持に働いている。申請者らは、PD-L1-PD-1遺伝子の発現が胃MALTリンパ腫の形成に関与していると考え、H. suis感染胃MALTリンパ腫に対する免疫チェックポイント阻害剤の腫瘍抑制効果の検討を目的とした。本研究では、以下のことを明らかにした。 フローサイトメトリーを用いてH. suis感染胃MALTリンパ腫構成細胞上のPD-L1ならびにPD-1発現解析を行ったところ、他の浸潤細胞に比べてB細胞上では、PD-L1が発現しており、また、T細胞上には、PD-1の発現していた。次に、組換えIFN-γ刺激後のリンパ腫細胞上のPD-L1発現メカニズムの解析を行ったところ経時的にPD-L1の発現が亢進していた。また、H. suis感染マウス胃粘膜に浸潤したT細胞内遺伝子発現解析を行ったところ、非感染マウス胃由来T細胞に比べてH. suis感染マウス胃由来T細胞では、T細胞の機能を破綻させるいくつかの遺伝子の発現が確認された。さらに、抗PD-L1抗体ならびに抗PD-1抗体を用いて胃MALTリンパ腫が抑制されるか否かを確認した。H. suis感染マウスに抗PD-L1抗体ならびに抗PD-1抗体を投与すると胃MALTリンパ腫形成の数が有意に減少することが明らかとなった。これらのことから、今後、本研究成果を発展させ、ヒト悪性リンパ腫患者への新規免疫チェックポイント阻害薬の有用性が期待される。
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