研究課題/領域番号 |
19K07554
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
松永 哲郎 東北大学, 医学系研究科, 助教 (00723206)
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研究分担者 |
末田 大輔 熊本大学, 病院, 特任助教 (70750040)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | Helicobacter cinaedi / 活性イオウ代謝 / 細胞内寄生 / 潜伏感染 / 骨髄内感染 |
研究実績の概要 |
ヘリコバクター・シネディ(Helicobacter cinaedi)はヒトや動物の腸管・肝臓から検出される腸肝ヘリコバクター属であり、1984年に初めてヒトへの感染が確認された新興感染症菌である。近年、本菌感染症の発症例および再発例が多く報告されているが、病態発現機構や感染疫学など不明な点が多く残されている。現在までに当研究室では、本菌感染症の血清診断法および遺伝子検出法を開発し、これらの方法を用いて、健常保菌者の存在および本菌感染による動脈硬化症の進展への関与を明らかにしてきた。本課題研究においては、本菌感染による病態発現機構の解明に向けた研究を展開しており、当該年度では、本菌の骨髄内における潜伏感染と細胞内寄生性について解析した。その結果、本菌がマウス骨髄中において持続的に潜伏感染することが示され、加えて、本菌は感染マクロファージにおいてオートファジー殺菌から回避し、最近イオウ呼吸の存在が見出されたミトコンドリアに集積することが示された。従って、本菌は細胞内に侵入後、オートファジーによる細胞内殺菌を回避し、ミトコンドリアのイオウ依存型のエネルギー代謝をハイジャックすることで細胞内寄生する可能性が示唆された。一方でごく最近、NADPHオキシダーゼ(Nox)と一酸化窒素合成酵素(NOS)による新規イオウ代謝経路を発見し、本菌のイオウ依存型の細胞内寄生メカニズムと密接に関連することが予想された。これらのことから本菌は細胞内寄生によって血管内定着し、宿主との共生関係を構築することで動脈硬化症を含む本感染症の病態を増悪させる可能性が考えられる。現在までに、本菌は日和見感染菌として考えられてきたが、このような本菌の血管内定着機構としての細胞内寄生の分子機構の解明は本菌の病原性発現と動脈硬化病因論の解明および予防・治療法開発への応用に向けて極めて重要である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本課題研究において、本菌感染による病態発現機構および疫学特性の解明に向けた研究を展開している。当該年度では研究実施計画に沿って、本菌の骨髄内における潜伏感染と細胞内寄生性について解析した。その結果、本菌がマウス骨髄中において持続的に潜伏感染することが示され、加えて、本菌は感染マクロファージにおいてオートファジー殺菌から回避し、最近イオウ呼吸の存在が見出されたミトコンドリアに集積することが示された。従って、本菌は細胞内に侵入後、オートファジーによる細胞内殺菌を回避し、ミトコンドリアのイオウ依存型のエネルギー代謝をハイジャックすることで細胞内寄生する可能性が示唆された。一方、当研究室では、NADPHオキシダーゼ(Nox)と一酸化窒素合成酵素(NOS)による新規イオウ代謝経路を発見し、イオウが酸素よりも優れた電子受容体としてNADPH依存的に還元・酸化され、活性イオウ分子種を再生成することが示された。このイオウ再活性化機構は、上記のような本菌のイオウ依存型の細胞内寄生メカニズムと密接に関連することが予想された。これまでに全く知られていないこのような活性イオウ分子およびミトコンドリアエネルギー代謝やオートファジーが関与する本菌の血管内定着機構としての細胞内寄生の分子機構の解明は本症の治療や予防への応用に向けて極めて重要である。以上のことより、本菌は細胞内寄生によって血管内定着し、宿主との共生関係を構築することで動脈硬化症を含む本症の病態を増悪させる可能性が考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
H. cinaediの活性イオウ代謝を介した骨髄内潜伏感染の分子機構を解明するために、マウスへの感染系を用いて、本菌感染マウスから本菌の遺伝子診断法および培養法を用いて検出を行い、また、骨髄系細胞における細胞内寄生の分子機構を特にオートファジー回避に着目して解析を行う。加えて、最近確立した質量分析器を用いた定量的イオウ代謝解析法により、細菌由来イオウ化合物と細胞内寄生との連関について解析する。さらに、Nox/NOSによる活性イオウ生成系(イオウの再活性化経路)のうち、特に感染防御に関わるNox2および誘導型NOS (iNOS)に焦点を当て、感染マクロファージにおけるミトコンドリアのエネルギー代謝経路や、本菌の潜伏感染との連関について明らかにする。これらの解析により、H. cinaediの細胞内寄生の分子機構を明らかにし動脈硬化症を含めた本菌感染症の予防・治療への応用に向けた研究を推進する。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初計画を効率的・効果的に進めた結果、計画より少ない直接経費でヘリコバクター・シネディの活性イオウ代謝を介した細胞内の潜伏感染機構に関する当初研究目的を概ね達成することが出来た。一方で、本課題研究遂行の過程で本菌感染に関わる新たな制御因子としてNox/NOSによる活性イオウ生成系(イオウの再活性化経路)の発見があり、上記の本研究の目的をより精緻に達成するために、この新規知見に関する追加実験を行う必要が生じたためである。H. cinaediによる細胞内寄生の分子機構の解明に向けた、遺伝子診断法および培養を用いた感染マウスからの本菌の検出、骨髄系細胞における細胞内寄生性の分子機構の解明、イオウ代謝解析法による活性イオウ分子と細胞内寄生との連関についての解析の為の実験に関する試薬や消耗品などの物品費に使用する。また、研究成果を論文にまとめ投稿する為の英文校正や論文投稿費として使用する。
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