研究課題/領域番号 |
19K07556
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研究機関 | 山口大学 |
研究代表者 |
清水 隆 山口大学, 共同獣医学部, 准教授 (40320155)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 野兎病 / 野兎病菌 / francisella / カイコ / CRISPR |
研究実績の概要 |
野兎病菌の節足動物内での増殖機構は全く解明されていない。野兎病菌 (Francisella tularensis) 亜種novicida (F. novicida)はカイコに感染後カイコ内で増殖しカイコを死亡させるため、この組み合わせを利用して野兎病菌の節足動物内増殖因子を同定した。F. novicidaのトランスポゾン変異株ライブラリーからカイコが死亡しない変異株をスクリーニングした。その結果、8個の遺伝子が節足動物内での増殖に必須であることが明らかとなった。その中で、これまでに病原因子としての報告がなかったmltA遺伝子に注目し、解析した。mltA欠損株はカイコ体内、カイコ由来細胞株BmN4細胞内での増殖が減弱していた。またmltA欠損株はヒトマクロファージ細胞株THP-1細胞においても増殖が減弱していた。このことからmltA遺伝子は宿主節足動物及びヒト体内において定着・増殖に関与する新規の病原因子であることが明らかとなった。この結果はFront Cell Infect Microbiol誌に投稿し、掲載された。 野兎病菌感染に関与する宿主因子CRISPRを用いた遺伝子破壊株を利用して同定するために、HeLa細胞での野兎病菌感染方を確立した。Francisella tularensis亜種tularensis (F. tularensis)に特異的な抗体を添加した菌体をFc受容体を発現したHeLa細胞に感染させたところ、感染と細胞障害が観察された。CRISPRとgRNAライブラリをHeLa細胞に導入し、F. tularensisに感染後、死滅しない細胞株を多数樹立した。今後、遺伝子の破壊部位の解析を進めていく予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では次の3項目について研究を行う予定である。A. カイコを用いた宿主内での定着・増殖に重要な因子の同定。B. カイコを用いた節足動物内媒介による病原性への影響の検討。C. 宿主内での増殖メカニズムの解明。 Aについては、F. novicidaとカイコを用いた野兎病菌の節足動物内増殖モデルを構築し、そのモデルを利用しmltA遺伝子が野兎病菌の節足動物内増殖因子であることを新規に同定した。論文を投稿し、掲載された。 Bについては、感染モデルの構築が今年度の研究で完了したため、引き続きカイコ感染における野兎病菌の質的な変化を検討していきたい。 Cについては、CRISPRを用いた遺伝子破壊細胞を用いて、野兎病菌感染に重要な宿主側の因子を同定することを目的としている。これまでは遺伝子破壊を適用するHeLa細胞に野兎病菌を感染させることが不可能であったが、Fc受容体を発現させたHeLa細胞に特異抗体を添加した野兎病菌を感染させることで、HeLa細胞への感染が可能となった。このシステムを用い、HeLa細胞にCRISPRとgRNAをレンチウイルスを用いて導入し、野兎病菌の感染により死滅しないHeLa細胞株を多数同定した。
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今後の研究の推進方策 |
引き続き次の3項目について研究を行う予定である。A. カイコを用いた宿主内での定着・増殖に重要な因子の同定。B. カイコを用いた節足動物内媒介による病 原性への影響の検討。C. 宿主内での増殖メカニズムの解明。 Aについては、mltA以外に同定された遺伝子の解析を行うと同時に、用いるトランスポゾン変異株ライブラリの数を増やし、再試験を行う。 Bについては、カイコ感染F. novicidaからRNAを抽出し、RNA-Seq解析を行うことで節足動物内での野兎病菌の発現遺伝子を解析したい。また節足動物感染後の野兎 病菌のマウスやヒト細胞株への感染性の違いを検討したい。 Cについては、取得した多数のHeLa細胞株にどのようgRNAが導入されたのかをシークエンス解析を行って同定する。その後、同定遺伝子をふたたびCRISPRを用いて破壊し、その遺伝子の関与を確認する。遺伝子を破壊したときの野兎病菌の感染動態を詳細に検討し、どのようなメカニズムにより該当遺伝子が野兎病菌感染に関与しているのかを解明したい。
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