当該年度は、Hcが保有するⅥ型分泌装置 (T6SS) 構成因子HcpおよびDotU変異株のU937細胞における細胞内生残性試験とTEM観察について、再度同実験を検証した。その結果、Hcp変異株、DotU変異株ともに細胞内菌数の経時的推移は野生株とほぼ同じ傾向を示した。また、TEM観察では、野生株感染時とほぼ同様な所見が得られた。これらの結果より、HcのT6SSは、Hcのマクロファージ (Mφ) 内における特異的な動態に関与しないことが示唆された。 次に、Hc感染によるアテローム性動脈硬化症の促進に関わると報告がある菌体因子、Cinaedi Atherosclerosis Inflammatory Protein (CAIP) に着目し、その変異株の作製を試みた。CAIPをコードしているnapA遺伝子領域をPCRにより増幅し、pGEM-T Easy Vectorのマルチクローニングサイトに挿入した。napA中にカナマイシン耐性カセットaphA-3を挿入し、Hcゲノム中のintactなnapA遺伝子と相同組換えを起こすためのプラスミドクローンを構築した。さらに、得られたプラスミドクローンをエレクトロポレーションによりHc菌体内に導入し、相同組換え (ダブルクロスオーバー) によるnapA遺伝子 (CAIP) 変異株の分離に成功した。構築したCAIP変異株のU937細胞内生残性を調べたところ、野生株と有意な差はみられなかった。一方、U937細胞、マウス腹腔MφへのHc感染において、オイルレッドO染色により、脂肪滴を検出したところ、野生株感染においては、未感染時と比較して、明らかに脂肪滴の生成が増加する所見を確認した。現在、CAIP変異株感染時の脂肪滴生成とを比較検討している。今後は、野生株及びCAIP変異株をマウスに感染させた際の動脈硬化症の誘引性を精査し、その分子機構の解明を目指す。
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