研究課題
Clostridioides (Clostridium) difficile感染症(CDI)は、抗菌薬関連下痢症・腸炎の1つであり、抗菌薬の使用等により正常な腸内微生物叢が撹乱し(ディスバイオシス)、C. difficileが過剰に増殖することにより発症する。CDIの治療では、バンコマイシンやメトロニダゾールなどの抗菌薬が有効であるが、抗菌薬は選択性に乏しく結局はディスバイオシスが惹起されることから、再びCDIが引き起こされることがある。従って、ディスバイオシスを起こさず、原因となるC. difficileのみを特異的に殺菌する新規治療法の確立が喫緊である。本研究課題では、その候補の1つとしてバクテリオファージ(ファージ)に着目した。ファージは、宿主である細菌に対して特異的に結合し、自己の溶菌酵素により殺菌する活性を示す。本ファージの特性を有効に利用したCDIの新規治療法の確立を目指し研究開発を行っている。本年度においては、ディフィシル菌ファージのゲノム情報を基に、ゲノム上の尾部タンパク質をコードする遺伝子、特に尾部吸着分子遺伝子について他のファージのものとの相同性解析を行った。その結果、2つのファージ尾部吸着分子と予想される遺伝子(orfAおよびorfB)を特定した。そこで、これらの遺伝子をHis融合タンパク質(His融合ORFAおよびHis融合ORFB)として大腸菌で発現・精製した。精製した2つの組換えタンパク質について、ディフィシル菌4株に対する結合を測定したところ、いずれの組換えタンパク質も濃度依存的に4つの菌株に結合した。現在、詳細な解析を進めている。
2: おおむね順調に進展している
本研究課題では、まず、ディフィシル菌臨床分離株から、溶菌性を示すバクテリオファージ(ファージ)の単離を行い、得られたファージの性状解析を行う予定にしていた。臨床分離株からの溶菌性ファージの単離を試みているが、現在の分離株からは困難であった。そこで、ディフィシル菌ファージの宿主認識機構の解明に向けて、まずは、ディフィシル菌に感染するファージのゲノム情報をもとに、ファージ尾部吸着分子について解析を行った。現在、作製した尾部吸着分子の種々のディフィシル菌株への結合能力および特異性を調べている。
ファージの特徴として、数種のタンパク質が複合体を形成し機能している可能性が考えられる。従って、今後、これらのことを踏まえて実験を行う必要がある。そこで、微量用遠心濃縮機および超微量分光光度計一式により、発現・精製したファージ尾部吸着分子の濃度調整を行う。本分子を用いて、ディフィシル菌に対する結合性を調べる。1)他の推定した尾部吸着分子をコードする遺伝子を発現用ベクターに挿入し、プラスミドを作製する。2)本プラスミドを大腸菌発現系により組換えタンパク質として発現させ、アフィニティーカラムにより精製する。3)作製した組換えタンパク質のディフィシル菌株に対する結合を調べ、ディフィシル菌に対する尾部吸着分子の特異性を明らかにする。
次年度の研究計画では、溶菌性のバクテリオファージ(ファージ)の単離および性状解析を行うとともに、組換え尾部吸着分子の機能解析を進める。今年度の未使用額は、次年度に繰り越して、本実験で使用する培地やアフィニティー担体などを購入し、研究を遂行することにした。また、研究分担者の未使用額も同様の目的で使用する予定である。
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Anaerobe
巻: 66 ページ: 102281
10.1016/j.anaerobe.2020.102281