研究課題/領域番号 |
19K07561
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研究機関 | 杏林大学 |
研究代表者 |
花輪 智子 杏林大学, 医学部, 教授 (80255405)
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研究分担者 |
阿部 章夫 北里大学, 感染制御科学府, 教授 (50184205)
桑江 朝臣 北里大学, 感染制御科学府, 准教授 (60337996)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | OMV / ベシクル / 百日咳 / ワクチン / 定着 / 分泌 |
研究実績の概要 |
メンブレンベシクル(MV)はDNA、RNAなどに加えて鉄の取り込み関与するタンパク質や病原因子などが膜構造により包まれて放出される直径30-250 nmの小胞であり、グラム陰性菌により分泌されるMVは外膜ベシクル(OMV)とよばれる。MVは近年では細菌のもつ分泌系の一つとされ(0型分泌系)、細菌間および宿主細胞に細菌由来の因子を運搬し、様々な生理機能や病原性の発現に重要な役割を担っていると考えられている。 細菌は急性期に発現している病原因子と慢性期に産生する病原因子の種類は異なる。慢性化する咳症状を呈する成人の感染症の中には百日咳菌感染症が一定数含まれていることが知られている。そこで本課題では、急性期に放出されるOMVとして浮遊細菌から放出されるOMVと慢性疾患と深く関わっているバイオフィルムから放出されるOMVに着目して研究を進めている。 MVには免疫原性があることからワクチンの候補とされ、百日咳菌の分泌するOMVも新たなワクチンとして注目されている。一方、百日咳菌のOMVの病原性における役割は明らかにされていない。現在、百日咳ワクチンとして解析されているOMVは超音波処理により放出されるものであり、細菌独自の機構により分泌されるものではない。そこで菌が保有する機構により分泌されるOMVについて、含有されている病原因子とその生物活性を明らかにする。 これまでの結果から、百日咳菌OMVには補体阻害因子が含まれており、さらにバイオフィルム由来のOMVには定着因子であるFHAが豊富に含まれていることを明らかにした。さらにこれまで免疫染色によりOMVに含まれているFHAがA549に取り込まれることを確認した。また、OMVがマクロファージに貪食され、FHAがファゴソームの膜に包まれていることを確認している。現在、これらのFHAの生物活性を検討中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
新型コロナウイルス感染拡大に対する措置のため、共同研究者の施設への立ち入り制限があり、共焦点レーザー顕微鏡、蛍光顕微鏡、超遠心機の使用時間が制限された。また、輸入品である抗体の入手に時間がかかり、さらにチップ、遠心チューブの入手が滞ったため、当初の計画よりやや遅れている。 これまでの結果から、A549にOMVを添加したところ、細胞の伸長およびクラスタリングが観察された。これらはバイオフィルム由来と浮遊細菌由来のOMVと両者に観察された。また、J774にOMVを添加した場合、細胞の変形と付着している細胞の減少が観察された。蛍代表者および分担者らはこれまでの研究において、主要な病原因子であり付着および免疫修飾作用が報告されているFHAに対する抗体のうち、蛍光染色に最も適したFHA抗体を選出している。そこでA549およびにマウス由来のマクロファージ細胞株J774にOMVを添加し、免疫染色により観察した。A549についてはローダミンでアクチンフィラメントを染色し、上皮細胞に取り込まれることを明らかにした。現在エンドソームの膜に局在するEEA1特異的な抗体を用いて多重染色による解析を行っている。同様に、マクロファージに貪食されたOMVが観察された。これらに加えて別の抗体でOMVを検出するため、Vag8に対する抗体を試したが、免疫染色での解析には至っていない。
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今後の研究の推進方策 |
前年度までにバイオフィルム由来および浮遊細菌由来のOMVを検出ためにOMV表層に局在するVag8に対する抗体を使用したが、検出に至らなかった。 上皮細胞への影響については、Vag8に対する抗体を新たに作成し、病原因子とOMVの膜との共染色を試みることで、OMVの上皮細胞への取り込みについて、その機構、影響をさらに解析する。また、マクロファージに対する影響については、FHAおよびACTの作用を中心に検討を行う。FHAはマクロファージの細胞死を引き起こして百日咳菌の定着を促進する。そこで本年度はマクロファージにOMVを添加し、その性状変化について解析する。 OMVを添加したマクロファージからmRNAを抽出し、qPCRによりサイトカイン発現量を産生に対する影響を調べる。細胞死を引き起こすことから、カスパーゼの産生等をイムノブロティングで検討し、さらに免疫染色でiNOSの産生などを調べる。 これらの結果から、バイオフィルム由来のOMVに豊富に含まれているFHAおよびACTによるマクロファージの影響を解析し、病原性発現におけるバイオフィルム由来OMVの影響を明らかにする。 これらの結果から、上皮細胞およびマクロファージに対するOMVの作用を検討することで、百日咳菌の定着におけるOMVの役割を明らかにする。これらは、OMVをワクチンへの応用に際して、その由来を考慮する上で重要な知見となる。さらにワクチンに対する生体の反応を予測する上で有用な情報を提供できるものと考える。
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次年度使用額が生じた理由 |
COVID-19感染拡大による共通機器使用の制限、試薬およびプラスチック製消耗品入荷の遅延による実験計画の遅延が生じたため、次年度使用額が生じた。 昨年は最終年度であったため、遅延した研究計画を本年度に実施する。そのため、昨年度に計画されていた培養細胞を用いた免疫染色、イムノブロッティングおよび定量PCRを行う。こららの実験に使用する抗体、培地、試薬、ディスポーザブルのプラスチック製器具を購入する。
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