研究実績の概要 |
医療現場で単離されるβ-ラクタム系薬耐性菌の多くは、薬剤分解酵素β-ラクタマーゼを生産することにより耐性を獲得している。酵素β-ラクタマーゼにはセリン残基を触媒基とするセリンβ-ラクタマーゼと、亜鉛を結合した金属酵素であるメタロβ-ラクタマーゼ(Metallo-β-lactamase, MBL)が存在する。近年の院内感染で特に拡散が著しいのはMBL生産菌である。MBLは広範囲のβ-ラクタム剤に対して加水分解活性を有し、他のβ-ラクタマーゼに分解されにくいカルバペネム系薬に対しても分解活性を示す。また、臨床で使用可能な阻害剤が存在しないことも問題となっている。本研究ではMBLの新規阻害剤の探索を見据え、MBLの酵素機能の解析を行なった。また、MBLに構造が類似した酵素ラクトナーゼの解析を試みた。 前年度は、MBLの金属結合状態を解析するため発現系の再構築を行った。これまでは大腸菌の菌体内で組換えタンパク質を発現し解析に用いていたが、亜鉛結合数が報告されている数より少なかったため、ペリプラズム分泌型発現系を再構築し、薬剤耐性菌におけるのMBL生産に近い発現系とした。本年度はこの発現系を用いて2つのMBL酵素IMP-1、IMP-27の解析を行った。この発現系で生産した酵素はいずれも2つの亜鉛を結合しており、本来の金属結合状態に近いと考えられた。また、キレート剤EDTA、DPA、PAR、カプトプリル存在下での活性を測定したところ、EDTA, PARはIMP-1に対する阻害が強いのに対し、DPAとカプトプリルはIMP-27をより強く阻害することが判明した。 MBL類似酵素ラクトナーゼAiiAの速度論的解析では、本来の酵素活性とは異なるβ-ラクタマーゼ活性が確認された。セファロスポリン系抗生物質セフォタキシム、セファロチン、セファレキシンに対しては速度論的パラメーターが決定できた。
|