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2019 年度 実施状況報告書

HTLV-1ウイルスによる感染細胞内外の微小環境支配と感染細胞運命への影響

研究課題

研究課題/領域番号 19K07573
研究機関東京大学

研究代表者

中野 和民  東京大学, 大学院新領域創成科学研究科, 准教授 (60549591)

研究期間 (年度) 2019-04-01 – 2022-03-31
キーワードHTLV-1 / ATL / ウイルス発がん / ウイルスタンパク質 / 細胞外微小環境
研究実績の概要

HTLV-1は感染T細胞を不死化し、約50~60年後に極めて悪性度の高い末梢血T細胞腫瘍ATLを引き起こす。HTLV-1感染細胞では、主要な機能タンパク質Tax、Rex、Hbzなどの働きにより、ウイルス複製や不死化のための環境整備が行われている。このようなウイルス活動は、宿主T細胞の機能や恒常性維持に様々な影響を残すと予想されるが、実際にどのような「傷」が残され、腫瘍化の引き金になるのかは分かっていない。そこで本研究では、HTLV-1感染細胞とATL細胞での分子異常を関連づけることにより、HTLV-1病原性の発現メカニズムの理解に近付けると期待した。HTLV-1感染細胞で起こる現象をより詳細に理解するため、我々は以前より、最も研究の余地が残されている、ウイルス機能タンパク質Rexに注目してきた。Rexは非/不完全スプライス型HTLV-1ウイルスmRNAの安定化を介して、ウイルス複製を制御する。しかしなぜRexがこのような機能を発揮できるか分かっていない。我々はこれまでRexが宿主細胞の転写、スプライシング、翻訳など様々な経路に介入していることを見出してきた。そこで本研究の2019年度では、Rex過剰発現CEM細胞で、エクソン・マイクロアレイ解析を行い、Rexがスプライシング機構与える影響を検討した。その結果、Rexはグローバルなスプライシング機構のバランスを変化させ、2000種類以上のmRNAのスプライシングパターンを変化させることが分かった。さらにRexによって第4エクソンの一部を欠損したvPD-L1mRNAが過剰に発現することが分かった。このvPD-L1 mRNAからは、膜貫通ドメイン以降を欠損した分泌型PD-L1が発現することを確認した。感染細胞からの分泌型PD-L1放出により、微小環境中の免疫チェックポイント活性にどのような影響があるか、引き続き検討する予定である。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

本研究では、(1)Rexの新規機能解析を中心に、HTLV-1感染細胞内外で起こる様々な変化を把握すること、(2)ATL細胞の遺伝子発現異常、スプライシング異常、エクソソームプロファイルなどの解析から、ATL細胞内外の分子異常を把握すること、そして(3)HTLV-1感染細胞とATL細胞での分子異常を関連づけ、HTLV-1感染初期にウイルス活動によって引き起こされる様々な影響が、どのようにATL発症という病原性に関係するのかを明らかにすることを目的としている。この研究計画の中で、2019年度はRex発現CEM細胞において、多くのmRNAのスプライシング・パターンが変化していることを明らかにし、Rexが宿主スプライシング機構に介入し、その活性を制御している証拠の一端を、新規に明らかにした。さらに、Rex発現細胞でスプライシング・パターンが有意かつ大幅に変化しているmRNAの一つに、PD-L1 mRNAを見出し、このvPD-L1 mRNAからは膜貫通ドメインを持たない、異常な分泌型PD-L1が発現することを確認した。このことは、Rexが感染細胞内の経路だけでなく、細胞外の免疫微小環境にも影響を与えている、初めての可能性を示唆するものである。Rexの新たな機能とその影響を見出せたことから、2019年度の研究はおおむね順調に進んでいると評価した。

今後の研究の推進方策

<Rexの新規機能解析によるHTLV-1感染の理解>
① Rexによる宿主遺伝子発現のグローバルな抑制機構と翻訳系への介入: Rex発現CEM細胞での遺伝子発現マイクロアレイ解析データより、Rexによる遺伝子発現機構への影響と上流因子の予測を行う。Rex interactome解析結果と合わせて、Rexがどのような転写因子と相互作用し、間接的に遺伝子発現パターンに影響を及ぼしているのか明らかにする。② Rexによるスプライシング制御:Rexによって、スプライシングに影響を受けるmRNAの傾向を明らかにし、Rexがどのようにスプライシングに影響しているか、その分子メカニズム解明を目指す。また、Rex発現細胞で過剰に発現していた、分泌型PD-L1の機能解析を進める。③エクソソームを介した感染T細胞による細胞外微小環境の支配:ヒトT細胞株にRexを過剰発現させ、培地中に放出されたエクソソーム内の、タンパク質や核酸に、Rexがどのように影響するか解析する。

<ATL細胞内外の分子異常の解明>
①ATL細胞での遺伝子発現異常の傾向の解析: ATL細胞でのマイクロアレイ解析データを基盤に、主にどのような転写因子群の発現異常が、ATL細胞での広範かつ劇的な遺伝子発現プロファイルの撹乱を引き起こしているか解析する。②ATL細胞でのスプライシング異常の傾向の解析:ATL細胞でのエクソン・マイクロアレイ解析データを基盤に、ATL細胞のスプライシング異常の実態を明らかにする。③ATL患者血漿エクソソームの性状解析:HTLV-1感染者やATL患者血漿よりエクソソームを高純度に単離し、フローサイトメトリーによって、エクソソーム表面抗原プロファイルを解析する。

  • 研究成果

    (2件)

すべて 2019

すべて 学会発表 (2件)

  • [学会発表] HTLV-1感染および腫瘍化と関連するエクソソーム表面抗原マーカー同定の試み2019

    • 著者名/発表者名
      中野 和民、宇都宮 與、渡邉 俊樹、内丸 薫
    • 学会等名
      第6回 日本HTLV-1学会
  • [学会発表] HTLV-1 Rexの宿主スプライシング機構制御における新規機能の探索2019

    • 著者名/発表者名
      内田 弘毅、渡邉 俊樹、内丸 薫、中野 和民
    • 学会等名
      第6回 日本HTLV-1学会

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公開日: 2021-01-27  

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