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2020 年度 実施状況報告書

HTLV-1ウイルスによる感染細胞内外の微小環境支配と感染細胞運命への影響

研究課題

研究課題/領域番号 19K07573
研究機関東京大学

研究代表者

中野 和民  東京大学, 大学院新領域創成科学研究科, 准教授 (60549591)

研究期間 (年度) 2019-04-01 – 2022-03-31
キーワードHTLV-1 / ATL / ウイルス発がん / ウイルスタンパク質
研究実績の概要

2020年度は、これまで注目してきたHTLV-1Rexの機能解析に加え、HTLV-1の他の重要な機能タンパク質であるTaxとHbzが、それぞれ相互にどのように相互作用しつつ、ヒトT細胞内で機能を発揮しているのかを明らかにするため、これらのウイルスタンパク質をヒトT細胞株(JurkatおよびCEM)において、レトロウイルス発現系とレンチウイルス発現系を組み合わせて共発現させる系を構築し、遺伝子発現マイクロアレイ解析を行った。また、HTLV-1感染性プラスミド(pX1-MT-M)をヒト293FT細胞に導入し、高効率に感染性TLV-1ウイルス粒子を産生する系を構築し、CEM細胞に人工的にHTLV-1を感染させ、これまで不可能だった感染初期(3日目)の遺伝子発現プロファイルの変化を解析した。以上の解析の結果より、Rex,Tax,HbzなどのHTLV-1ウイルスタンパク質は、これまで知られていた個別の機能を示すだけでなく、共存することでお互いの機能や活性を制御し合っている様子が分かってきた。またHTLV-1の感染初期には、エピジェネティック制御、感染応答、細胞接着、シグナル経路、そして細胞の増殖・がん化などに関わる遺伝子群が過剰発現しており、これらの遺伝子群の多くが、Rex,Tax,Hbzによって個別に、または共通して発現上昇する転写因子群によって制御されていることが分かった。さらに、HTLV-1感染初期の遺伝子発現プロファイルはHTLV-1感染者体内の慢性感染細胞の遺伝子発現プロファイルと共通するものもある一方で、異なる部分も多く見られた。このことから、感染初期では、感染細胞を活性化し、不死化・セルフリニューアルする傾向の遺伝子発現プロファイルが見られるのに対し、その後潜伏状態に入ると、それを安定的に維持する新たなフェーズに移行する可能性が示された。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

本研究課題の目的は、HTLV-1感染初期に感染T細胞で起こっている事象を実験的に明らかにし、すでに多くのデータが蓄積されているATL細胞内の分子異常と関連付けることにより、HTLV-1感染によるウイルス発がんメカニズムを解明することである。そのためには、HTLV-1感染の場をできる限り現実的に再現することが必須である。この度、ヒトT細胞株においてHTLV-1ウイルスタンパク質を複数共発現させる系、および高効率に感染可能な人工的HTLV-1ウイルス粒子作製系を構築できたことにより、本研究の柱となる重要なデータを取得することができた。よって、本研究はおおむね順調に進んでいると評価した。

今後の研究の推進方策

これまで、CEM細胞にRex, Tax, Hbz単独、またはRexとTaxを共発現させた時の遺伝子発現マイクロアレイ解析を実施した。今後は、RexとHbz、TaxとHbz、Rex・Tax・Hbz全てを共発現させたCEM細胞を取得し、遺伝子発現マイクロアレイ解析を行う。また、HTLV-1感染系についても、CEM細胞でのHTLV-1感染3日目の遺伝子発現マイクロアレイ解析データを得た。今後は、これまで得られた以上のマイクロアレイデータセットを、詳細に統合解析し、HTLV-1感染初期に感染細胞内で起こっている遺伝子発現変化とその影響、そしてRex,Tax,Hbzがそれぞれどのように感染初期のウイルス活動において機能を発揮しているか、感染細胞内のランドスケープを明らかにしたい。
また、より現実的なHTLV-1感染の場の再現として、HTLV-1人工的感染系を新鮮ヒトPBMCを用いた感染実験が可能なように最適化する。現在は、感染先(CEM細胞)にあらかじめHTLV-1-LTR-EGFPプラスミドを導入し、感染細胞=EGFP(+)細胞を濃縮・単離して遺伝子発現解析に供してきた。しかし、新鮮PBMCにはあらかじめHTLV-1感染レポータープラスミドを高効率に導入することが難しい。そこで、mCherryとフュージョンしたEnvを発現するHTLV-1ウイルス粒子の構築を計画している。このようなHTLV-1粒子が作成できれば、感染細胞=mCherry(+)細胞として濃縮が可能になる。
2021年度は本研究課題の最終年度なので、これまで得られたデータの解析を進めながら、ATL患者細胞、HTLV-1キャリア細胞の遺伝子発現プロファイルと統合解析を行うことで、本研究の目的である「HTLV-1感染とATL細胞への変遷との関係」を明らかにしたい。

  • 研究成果

    (3件)

すべて 2021 2020

すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (2件)

  • [雑誌論文] Overexpression of aberrant Wnt5a and its effect on acquisition of malignant phenotypes in adult T-cell leukemia/lymphoma (ATL) cells.2021

    • 著者名/発表者名
      Nakano K., Chihara Y., Kobayashi S., Iwanaga M., Utsunomiya A., Watanabe T., and Uchimaru K.
    • 雑誌名

      Scientific Reports

      巻: 11 ページ: 4114

    • DOI

      10.1038/s41598-021-83613-2

    • 査読あり / オープンアクセス
  • [学会発表] Exploring the biological impact of HTLV-1 Rex on dysregulation of the host T-cell splicing machinery2020

    • 著者名/発表者名
      Marie Tanaka, Koki Uchida, Toshiki Watanabe, Kaoru Uchimaru, and Kazumi Nakano
    • 学会等名
      第79回日本癌学会学術総会
  • [学会発表] Examination of effects and the mode-of-action of a new drug candidate, Darinaparsin, on adult T-cell leukemia/lymphoma (ATL) cells2020

    • 著者名/発表者名
      Tomohiro Nasu, Aki Tanabe, Toshiki Watanabe, Kaoru Uchimaru, and Kazumi Nakano
    • 学会等名
      第79回日本癌学会学術総会

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公開日: 2021-12-27  

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