インフルエンザウイルスのRNAゲノムに由来するRNAが持つ機能や生理機構を明らかにするための研究を行った。まず、インフルエンザウイルスのゲノム複製過程を、ウイルスタンパク質発現プラスミドを用いて培養細胞内で再現する実験系の構築を行い、これに成功した。この実験系を利用して、複製テンプレートとなるウイルスゲノム様配列にさまざまな変異を導入すると、それに応じてテンプレートゲノムから生成されるsmall RNAの発現量や塩基長が変化することが分かった。さらに、このsmall RNAを細胞内にトランスフェクションした状態で前述のゲノム複製再現実験やウイルス感染実験を行った。その結果、複製テンプレートやウイルスに由来するゲノム(様)RNA/相補RNA/mRNAの量比が変化したことから、このsmall RNAは遺伝子の複製と転写の切り替えに関与していることが示された。 つぎに、インフルエンザウイルスのゲノムに由来するRNA分子が化学修飾を受けているかについて検討を行った。インフルエンザウイルス感染細胞からRNAを抽出した後に断片化を行い、RNA修飾に特異的な抗体を用いて免疫沈降実験を施行した。免疫沈降後の試料に対して次世代シーケンサーによる網羅的核酸解析を行い、ウイルスに由来するRNAにおいて化学修飾を有していると考えられる部位を同定した。 そして、ウイルスゲノム中の機能を持っていると思われる箇所が進化の過程で何らかの選択圧を受けているのかを解析するために、新たなアルゴリズム「DMAMS」を開発した。DMAMSは、特定の遺伝子型をもつウイルス株が集団中で広がった時に、どの遺伝子変異がその広がりに関連しているのかを検出することができる。開発したDMAMSを用いて、進化の過程で有利であったために選択されたと思われるウイルスゲノム上の特定の変異を明らかにすることができた。また、ウイルスのゲノム進化によって起こった形質の変化を二次元空間に図示する手法を新規に確立した。
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