研究課題/領域番号 |
19K07581
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研究機関 | 近畿大学 |
研究代表者 |
塚本 徹雄 近畿大学, 医学部, 助教 (80750223)
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研究分担者 |
宮澤 正顯 近畿大学, 医学部, 教授 (60167757)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | フレンドウイルス / 白血病 / 白血病幹細胞 / 赤血球前駆細胞 / ストレス造血 |
研究実績の概要 |
2020年度はマウスにおけるフレンドウイルス(FV)誘発赤白血病発症機構をさらに理解すべく、in vitro、in vivoでの解析を進めた。 In vitroではこれまでに樹立されてきているFV赤白血病細胞株の表現型を詳細に解析した。複数の細胞株を調べたが、FV赤白血病細胞株はいずれもc-Kit陽性Sca1陰性CD71陽性Gal-9陽性であり、正常骨髄にある赤血球前駆細胞(EP)と類似した表現型と思われたが、その一方でPU.1 の発現が上昇しており、一部の細胞ではTIM-3陽性であり、さらに PD-L1 の発現も骨髄EPより明らかに高いなど、EPと骨髄球系細胞の混合型(ハイブリッド)のような表現型を示すことが特徴として分かった。さらに、NF-κBとmTORの活性化の様態をそのリン酸化の検出により調べたところ、FV白血病細胞株がNF-κB p65とmTORの強い活性化を示すことが分かった。細胞株をNF-κB阻害剤(IKK-16)存在下で培養するとアポトーシスが誘導されること、またmTOR阻害剤(rapamaycin)存在下で培養すると細胞増殖速度が低下することから、これらの活性が白血病細胞の生存と増殖に重要であることが示唆された。 こうしたFV白血病細胞株の解析結果からヒントを得たため、動物実験についても白血病発症機構の解明を進めると共に、より基礎的な前駆細胞・白血病細胞の理解を深めるため、定常時骨髄EP、フェニルヒドラジジン(PHZ)投与後にみられる脾ストレスEP、FV感染後に慢性的にみられる脾ストレスEPにおける機能的因子の発現の解析を進めた。すると、PHZ投与後またはFV感染後のいずれの場合でも、脾臓で増加するストレスEPにおいて、骨髄EPよりも明らかに高いNF-κBの活性化がみられた。このことはストレス造血における炎症性シグナルの関与を示唆する重要な知見であった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
まず、Galectin-9ノックアウト (Gal-9 KO) マウスを用いた FV 白血病発症機構解明のためのマウスモデルの確立はやや遅れている。その理由は、Gal-9 KO マウスの新生児において出生初日に亡くなりやすいという特徴がみられており、繁殖にてこずっているためである。なぜそのような現象がみられるのか、今のところ不明であるが、これらの Gal-9 KO 新生児マウスが肝腫大を呈し、その原因が赤芽球の増加であることが観察されている。しかも、赤芽球のなかでもCD71陽性の未分化なタイプは逆に減少しており、新生児における赤血球産生にも Gal-9 欠損がなんらかの影響を与えている可能性がある。このことが FV誘発赤白血病の病態生理に与える影響は全く未知であるが、その一方で Gal-9 が新生児の生存に与える影響がもしあるのであれば、それ自体が非常に重要な生命科学的知見となる可能性があるため、単に予定通り研究が進捗する以上の収穫があったと考えている。 一方上記のように、今回はFV白血病細胞、定常時骨髄EP、脾ストレスEPの解析を予定以上に進めており、ストレス造血とFV白血病発症における炎症性シグナルの関与が示唆されるなど、充分な進捗もあった。なかでも、骨髄造血前駆細胞は多種類の細胞が混合しており、その表現型や機能の正確な把握は未だに困難であるため、ひとつでも多くのマーカーがみつかればそれだけフローサイトメトリーなどの解析の進歩と機能的解析への手掛かりとなる。そのような意味で、これまで Gal-9 を EP のマーカーとして同定したこと、定常時骨髄EP にみられない脾ストレス EP の特徴として NF-κB の強い活性化がみられること、というこれらの新知見は有意義であろうと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
2020年度までの研究により、脾ストレスEPにFV誘発赤白血病が起こる理由を解明するため、脾ストレス EP を定常時骨髄EPと比較解析することの価値があきらかになった。そのため、2021年度も両者の表現型と機能の比較解析をより詳細に進める予定である。 それに加え、PHZ投与後の脾ストレスEPとFV感染後の脾ストレスEPにも違いがあるはずである。たとえば過去の論文では、前者がエリスロポイエチン(EPO)依存性にコロニーを形成するのに対し、後者はEPO非依存性にコロニーを形成するといわれている。このことは脾限局巣形成ウイルス(SFFV)のEnv遺伝子から翻訳される gp55蛋白がエリスロポイエチン受容体(EpoR)と相互作用することと関係するかもしれない。そうすると、定常時骨髄EP と脾ストレスEP における EpoR の発現レベルと機能の違いが気になる所となる。さらにEpoRからの細胞内シグナルは JAK2、STAT5 を介するが、それ NF-κB とになんらかの関係があるのか。このように、EPとストレス赤血球産生はその機能・機構に未解明な点が多く、まだ様々な研究の余地を残している。 FV白血病細胞株を用いた実験としては、いくつかの特徴的分子のsiRNAによるノックダウン実験を進めていく。FV白血病細胞と定常時骨髄 EP との比較でもっとも特徴的なのは PU.1 遺伝子の恒久的な発現上昇であり、それは PU.1 プロモーターへの SFFV プロウイルス DNA 挿入による転写活性化による。それでは PU.1 をノックダウンするとどうなるだろうか。また、やはり定常時骨髄 EP には見られない PD-L1 高発現の原因はなにか。それは PU.1 の発現上昇によるのか、あるいはより複雑なメカニズムによるのか。この点は、がん特異的免疫の有効性を高める方法を考える上でも是非解明したい。
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