本研究では、マウスのフレンド白血病ウイルス(FV)感染後に発症する赤白血病 (赤血球系の白血病)の発症機序を明らかにすることを目的として、発がんの標的となる赤血球前駆細胞 (EP) およびFV感染マウスより分離されたフレンド白血病細胞(FLC)をそれぞれ解析し、両者の類似点と相違点を調べた。 まずEPの性質を知るため、フローサイトメトリー(FACS)を用いてC57BL/6J (B6) 系統マウスの骨髄細胞を解析した。c-Kit強陽性Sca-1陰性 (造血前駆細胞) 分画の解析では、その中の CD34陰性CD71陽性細胞(コロニー形成赤血球前駆細胞: CFU-E)が CAT-1 (カチオン性イオン輸送体1) および Gal-9 (Galectin-9) を選択的に高発現していることを発見した。CAT-1 についてはFVの受容体であることから、FVがEPの白血病を起こす理由がCAT-1発現の選択性にあることが明らかとなった。一方、Gal-9がEPに高発現する理由をさらに調べるため、Gal-9ノックアウト(KO)マウスを用いた解析を進めたところ、Gal-9KOマウスのEPにおいてはAMPK(AMP活性化キナーゼ)の発現レベルが野生型(B6)マウスに比して有意に低いことが分かった。 これらの知見をもとにFLCの解析を進めた。まずFLCをFACS解析したところ、FLCではEPとくらべCAT-1の発現はほとんどみられなかったが、Gal-9とAMPKの発現はEPと同様に高かった。このうちAMPKは細胞内のATP(アデノシン三リン酸)の濃度維持に必要であり、AMPKの阻害により高度のアポトーシスを認めた。その他、FLCではNF-κB、MerTK (Mer チロシンキナーゼ)、mTOR (哺乳類)も細胞の生存・増殖に関与することが明らかとなった。
|