研究課題/領域番号 |
19K07582
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研究機関 | 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構 |
研究代表者 |
加藤 悦子 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構, 高度解析センター, 主席研究員 (00355752)
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研究分担者 |
松村 浩由 立命館大学, 生命科学部, 教授 (30324809)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | ウイルス / トマトモザイクウイルス / コロナウイルス / 複製蛋白質 / 立体構造 / クライオ電顕 |
研究実績の概要 |
プラス鎖RNAウイルスは、多くの動物ウイルスと植物ウイルスを含む最大のウイルスグループであり、その複製過程の解明や抗ウイルス対策の確立が期待されている。複製過程で中心的な役割を果たすのが複製タンパク質である。プラス鎖RNAウイルスの複製タンパク質の多くにはヘリカーゼ(Hel)やメチルトランスフェラーゼ(Met)など共通なドメインを含むものが多い。トマトモザイクウイルス(ToMV)の複製タンパク質もこれら共通のドメインをコードしている。本課題では、ToMVを研究対象として、ウイルス複製タンパク質の立体構造情報を基盤とした①ウイルスの複製機構の解明、②新規抗ウイルス薬候補の探索、を目指して研究を進めている。今年度は、ToMVの複製タンパク質全長(HelとMetを含む)の精製を行い、構造解析を進めている。今年度は130K/ATPγS/SiRNA複合体について、クライオ電顕による構造解析が進んだ。また、130K/ATPγSについてはクライオ電顕による構造解析が進行中である。また、X線溶液散乱による外形構造についても解析が進行中である。これらの構造が解明できれば、プラス鎖RNAウイルスに共通に存在するMetの構造が世界で初めて解明できることになる。また、HelとMetは複製に必須なドメインであり、両者の相互作用様式が解明できれば新たな創薬のターゲットを見出すことが期待できる。さらに新型コロナウイルスと酷似している豚コロナウイルス(PEDV)のHelについて結晶構造の精密化を進めた。我々はすでにToMVやコロナウイルスに対して、Helに相互作用しウイルスの複製を阻害する化合物を見出している(特許取得済み)。現在、これら構造と阻害機構の詳細について解析を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
①ウイルスの複製機構の構造情報を基盤とした解明: ToMVの複製蛋白質(130K)全長の精製を行いX線溶液散乱およびクライオ電顕による観察を行ってきた。130Kはウイルスの複製に必須なるHelとMetを含むとともに、RNAサイレンシングのターゲットとしても機能することが知られている。今年度は130K/ATPγS/siRNA複合体についてクライオ電顕による構造解析が著しく進み、現在精密化の最終段階まで到達した。また、130K/ATPγS複合体および130K/ATPγS/siRNA複合体についてX線溶液散乱のデータ解析を進めている。 ②新規抗ウイルス薬候補の探索:我々はすでにコロナウイルスとプラス鎖RNAウイルスのモデルとして研究されているToMVに対して、Helに相互作用しウイルスの複製を阻害する化合物を見出している(特許取得済み)。しかし、その作用機構は明らかになっていない。そこで、ToMV-およびPEDV-Helと化合物との複合体構造解析に着手した。共結晶の創出にトライしているが、現時点で共結晶のデータは得られていない。また、PEDVの構造が明らかになったことから、構造と薬剤の選択性等について論文にまとめている。
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今後の研究の推進方策 |
①ウイルスの複製機構の構造情報を基盤とした解明: ToMVの複製タンパク質(130K)全長の精製を行いX線溶液散乱およびクライオ電顕による観察を行ってきた。130Kはウイルスの複製に必須なるHelとMetを含むとともに、RNAサイレンシングのターゲットとしても機能することが知られている。今年度は130K/ATPγS/SiRNA複合体についてクライオ電顕による構造解析が著しく進み、精密化の最終段階まで到達した。また、130K/ATPγS複合体および130K/ATPγS/siRNA複合体についてX線溶液散乱のデータ解析を進めている。 ②新規抗ウイルス薬候補の探索:我々はすでにコロナウイルスとプラス鎖RNAウイルスのモデルとして研究されているToMVに対して、Helに相互作用しウイルスの複製を阻害する化合物を見出している(特許取得済み)。しかし、その作用機構は明らかになっていない。そこで、ToMV-およびPEDV-Helと化合物との複合体構造解析に着手した。共結晶の創出にトライしているが、現時点で共結晶のデータは得られていない。また、PEDVの構造が明らかになったことから、構造と薬剤の選択性等について論文にまとめている。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度は130K/ATPγS/siRNAの電顕構造解析が進みこれに注力したため、計算に割く時間が多かった。そのため実験室系の実験を行うことができず、消耗品等の使用が少なく余剰が生じた。次年度は、共結晶構造の創出など実験室での実験が増えることから消耗品等の使用量増加、実験補助者の雇用の必要性があることから、これらの経費に充てる予定である。
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