プラス鎖RNAウイルスは、多くの動物ウイルスと植物ウイルスを含む最大のウイルスグループであり、その複製過程の解明や抗ウイルス対策の確立が期待されている。複製過程で中心的な役割を果たすのが複製タンパク質である。プラス鎖RNAウイルスの複製タンパク質の多くにはヘリカーゼ(Hel)やメチルトランスフェラーゼ(Met)など共通なドメインを含むものが多い。トマトモザイクウイルス(ToMV)の複製タンパク質もこれら共通のドメインをコードしている。本課題では、ToMVの複製タンパク質130Kを研究対象として、ウイルス複製タンパク質の立体構造情報を基盤とした①ウイルスの複製機構の解明、②新規抗ウイルス薬候補の探索、を目指して研究を進めている。今年度は130K/ATPγS/SiRNA複合体および130K/ ATPγS複合体について、クライオ電顕による構造解析を終了した、これらの構造からプラス鎖RNAウイルスに共通に存在するMetの構造が世界で初めて解明できた。また、X線溶液散乱による外形構造についても解析や、siRNAとの結合活性を評価した。さらに新型コロナウイルスと酷似している豚コロナウイルス(PEDV)のHelについて結晶構造をS-SAD法により決定するとともに、ベネズエラ馬脳炎ウイルスのヘリカーゼとRNAとの複合体について構造解析に成功した(精密化中)。我々はすでにToMVやPEDVなどのコロナウイルスに対して、Helに相互作用しウイルスの複製を阻害する化合物を見出している(特許取得済み)。また、19F NMRを用いたフラグメントスクリーニングを開始し、これらの結果について解析を進めている。
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