抗インフルエンザ薬であるファビピラビル(アビガン錠)は、既存の抗インフルエンザ薬とは作用機序が異なり、発症後48 時間経過した感染者や薬物耐性ウイルスにも効果があるとされる。しかし、必要量がオセルタミビルよりも約70 倍多く、胎児の催奇形性が懸念されるなど問題があった。ウイルスに感染していない細胞にまで薬の作用が及ぶことが原因と考え、本研究ではインフルエンザウイルスが持つシアル酸分解酵素ノイラミニダーゼのはたらきをきっかけに、薬剤が遊離される仕組みをもつプロドラッグの試作に取り組んできた。昨年度は安価に入手できるファビピラビル類縁体T-1105をモデル薬剤としてプロドラッグ化合物を合成し、ノイラミニダーゼの作用による薬物遊離の実現可能性を調査した。その結果、ノイラミニダーゼがシアル酸部位を分解すると、リンカー部位が自発的に崩壊し、最終的に薬物が遊離されることが確認された。しかし、リンカー部位の崩壊速度が律速となり、十分量の薬物が遊離されるまでには多くの時間を要した。本年度は、薬物遊離を速めるべく、リンカー部位に改良をほどこした新たなT-1105プロドラッグを合成した。薬剤ブロックとシアル酸ブロックをそれぞれ合成した後、それらのカップリングと脱保護を経て、目的化合物に導いた。ノイラミニダーゼの作用によるT-1105の遊離実験の結果、これまでのデザインと比べて大幅に薬物遊離の時間を短縮できることが明らかになった。
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