研究課題/領域番号 |
19K07590
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
今井 正樹 東京大学, 医科学研究所, 准教授 (30333363)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | A型インフルエンザウイルス感染 / 好中球 / 接着 / ヘマグルチニン (HA) |
研究実績の概要 |
好中球のインフルエンザウイルス性肺炎病態形成における役割は明らかにされていない。本研究では、感染細胞への好中球の接着がインフルエンザウイルスの排除に寄与しているのかどうかを明らかにするため、好中球とインフルエンザウイルス感染細胞との相互作用を解析した。 令和2年度は感染細胞への好中球の接着が細胞におけるインフルエンザウイルス蛋白質の合成に影響するのかどうかを解析した。インフルエンザウイルスは蛍光タンパク質Venusの遺伝子を組み込んだA/Puerto Rico/8/34 (H1N1, Venus-PR8) を用いた。好中球は健常者の末梢血から単離した後、N-Formyl-Met-Leu-PheとサイトカラシンBを用いて活性化した。ヒト肺腺癌由来Ⅱ型肺胞上皮細胞A549細胞にVenus-PR8 をmultiplicity of infection (MOI) = 3にて感染させた。感染後6時間目にA549細胞1個あたり10個の好中球を添加し培養した(接触条件)。また、直接的な細胞間接触を防ぐため、感染細胞を含むプレートにTranswellインサートを装填し、好中球をインサート内に添加して共培養した(非接触条件)。インフルエンザウイルス粒子の表面糖蛋白質ヘマグルチニン (HA) とその内部に存在する核蛋白質(NP)の感染細胞における発現量をCell ELISAを用いて測定した。 好中球添加後6時間目と18時間目におけるウイルス蛋白質の発現量を解析したところ、接触条件と非接触条件における細胞表面のHA量は、いずれの時間においてもコントロール(好中球未添加)に比べて有意に低かった。また、接触条件におけるHAの発現量の低下は非接触条件よりも大きいことがわかった。一方、NPの発現量は、いずれの条件においてもコントロールと同程度であった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
令和元年度は、インフルエンザウイルス感染細胞に接着した好中球がウイルスの増殖を抑制していることを報告した。しかし、好中球がどのようにしてウイルス増殖を抑制するのかは不明である。 そこで令和2年度は、好中球がインフルエンザウイルス感染細胞におけるヘマグルチニン (HA) と核蛋白質(NP)の合成を阻害するのかどうかを解析した。その結果、好中球と共培養した感染細胞ではHAの合成あるいは細胞内輸送が阻害されることがわかった。一方、NPの合成は阻害されなかった。このHAの合成あるいは輸送阻害効果は、好中球が感染細胞に接触する条件の方が接触しない条件よりも大きいことがわかった。このように当該年度において、好中球がインフルエンザウイルスの増殖を抑制するメカニズムの一端を明らかにすることができた。
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今後の研究の推進方策 |
好中球が分泌する主要な殺菌性因子の一つであるミエロペルオキシダーゼは、インフルエンザウイルス粒子を不活化することが報告されている。また、好中球が血管内皮細胞に直接接触すると、ミエロペルオキシダーゼが好中球から内皮細胞に移送され、内皮細胞が傷害されることが示されている。そこで、令和3年度は好中球と共培養したインフルエンザウイルス感染細胞内においてミエロペルオキシダーゼが検出されるのかどうかを解析する。好中球と共培養した非感染細胞 (接触条件) あるいは感染細胞 (接触条件と非接触条件) におけるミエロペルオキシダーゼを蛍光抗体法で検出する。 さらに、インフルエンザウイルス感染における好中球の役割を明らかにするため、インフルエンザウイルスを感染させたマウスの肺組織内における好中球と感染細胞との接着部位を解析する。電子顕微鏡法を用いて、接着部位の細胞膜とその膜直下の領域に構造変化が生じるのかどうかを解析する。
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