研究課題/領域番号 |
19K07593
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研究機関 | 長崎大学 |
研究代表者 |
久保 嘉直 長崎大学, 熱帯医学研究所, 准教授 (30273527)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 海産生物 / GILT / フコイダン / HIV / 新型コロナウイルス |
研究実績の概要 |
(ブラックタイガーGILTはHIV増殖を抑制する)我々は以前にヒトgamma-interferon-inducible lysosomal thiol reductase (GILT)がレトロウイルス増殖を抑制する宿主防御因子として機能することを発見した。それまでGILTは、抗原提示細胞が貪食した抗原蛋白質のS-S結合を切断し、プロテアーゼによって分解し易くすることによりMHCに提示されるペプチドを効率よく生成するために機能すると考えられていた。すなわちGILTは獲得免疫の開始に重要な働きを行なっている。しかし、GILTは獲得免疫のない下等動物にまで保存されており、下等動物ではそれ以外の働きを持っていると考えられる。特に節足動物のGILTでは、thiol reductase酵素活性中心であるCXXC配列がCXXSに変化している。我々は、CXXS配列を持つブラックタイガーGILTとヒトGILT変異体がHIV増殖を抑制するが、thiol reductase活性はないことを突き止めた。この結果は、GILTの本来の機能が抗ウイルス活性であることを示している。 (海産生物由来物質による新型コロナウイルス感染抑制)我々は以前に海産下等動物ホヤに存在するアルカロイドであるlamellarin a-20 sulfateがHIV感染を抑制することを発見した。本研究では、lamellarin a-20 sulfateの新型コロナウイルス感染に及ぼす影響を観察し、予期したように感染を抑制することを突き止めた。以前の研究から、硫酸残機が抗ウイルス活性に必須であるので、海藻に存在する硫酸多糖類フコイダンの新型コロナウイルス感染に及ぼす影響を観察した。その結果、フコイダンはウイルス粒子と標的細胞の結合を阻害することにより感染を抑制することを発見した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初、本研究課題は、ウイルス感染によって発現が上昇する14種類のエビ因子のHIV増殖に及ぼす影響を観察し、新規抗ウイルス因子を同定することが目的であった。その結果、エビGILTとlegmainがHIV増殖を抑制することを突き止めた。昨年度、エビおよびヒトlegmainの強制発現がHIV増殖を抑制し、ノックダウンがHIV増殖を促進することを実験的に証明した。この結果は、legmainが新規宿主防御因子であることを示している。本年度は、上述したように、エビGILTの抗ウイルス活性を解析した。これまでGILTは獲得免疫の開始に重要であると考えられてきたが、我々は、GILTが本来、自然免疫において抗ウイルス因子として機能することを突き止めた。当初予定していた実験は全て行った。その成果を国際学会において発表する予定であったが、新型コロナウイルスの流行により海外に行くことが出来なかったので、次年度に発表する予定である。これらの成果に加え、海産生物由来物質であるlamellarin a-20 sulfateとフコイダンが、細胞の生存に影響することなく、エボラウイルスと新型コロナウイルスの感染を効率よく抑制することを突き止めた。これらの化合物は、エボラウイルスと新型コロナウイルスによる感染症に対する治療薬開発のためのリード化合物となり、本研究成果は新規治療法開発に貢献する。
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今後の研究の推進方策 |
(legmain)legmainがHIV増殖を抑制する宿主防御因子として機能することを突き止めたが、その作用機序は不明である。legmainはエンドソームに局在するプロテアーゼなので、HIV Env蛋白質を切断することにより感染を抑制すると考えられる。この仮説だ正しいかどうか解析するため、legmainとEnv蛋白質の組換え蛋白質をインキュベートし、Env蛋白質が実際に切断されるかどうか観察する。またエンドソームにはそれ以外にも多くのプロテアーゼが存在する。それらのHIV増殖に及ぼす影響を観察することによりエンドソーム・プロテアーゼとウイルスの相互作用を解析する。 (lamellarin a-20 sulfate)我々は、lamellarin a-20 sulfateがHIVおよび新型コロナウイルス感染を抑制することを突き止めた。これまでの我々の研究では、lamellarin a-20 sulfateはスパイク蛋白質に結合すると考えられる。この結果は確認するため、lamellarin a-20 sulfate耐性の新型コロナウイルスを単離し、耐性を付与する変異を同定する。その変異が存在する遺伝子がlamellarin a-20 sulfateの標的であり、lamellarin a-20 sulfateがその遺伝子産物のどのような機能に影響するのか同定することにより、lamellarin a-20 sulfateの抗ウイルス分子機構を明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初、国際学会において研究成果を発表する予定であったが、新型コロナウイルスの流行により海外に出張することが出来なかったので。また、当初予定していたクルマエビ因子以外の因子を単離し、HIV増殖に及ぼす影響を単離する計画であった。この実験を行うため、県外のクルマエビ養殖場に行き、クルマエビをもらう予定であったが、新型コロナウイルスの流行により行けなかった。よって、その実験全てが出来なかった。そのため、この実験と国際学会における発表を次年度に繰り越した。
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