研究課題
cART療法の確立により、エイズ患者の生命予後は改善したものの、一方で長期療養患者が増加し、既存の薬剤に対する耐性の問題や免疫再構築症候群などの新たな合併症も出現した。ウイルスの持続感染機構と発症機序を明らかにし有効な対策を立てることは重要かつ緊急の社会的要請となっている。ヒト免疫不全ウイルス(HIV)の骨格蛋白質Gagは細胞侵入過程から子孫ウイルス形成過程に至る各ステップにおいて重要な役割を果たすことが知られており、したがって宿主によるGag制御機構を詳細に紐解くことによって次世代標的薬のデザインが可能となる。しかしながらGagはその細胞内挙動が複雑なため、詳細な機能制御機構は不明である。そこで本研究では、複雑なGagの挙動を反映した独自の生細胞アッセイ系を用い、Gagを機能不全に導く宿主因子を探索し、宿主によるGag機能制御機構を包括的に解明する。具体的には、蛋白質-蛋白質間相互作用を検出可能なBRET技術を応用し、Gag結合因子を生細胞で網羅的に探索する。次にこれらの因子がGagの機能へ与える影響を定量的に解析する。本年度はまず、BRET技術を応用したGag結合因子スクリーニング系を構築した。本スクリーニング系は、深海エビ由来ルシフェラーゼを付加したGagを発現する細胞に、赤色蛍光蛋白質を付加した宿主因子をそれぞれ細胞に発現させ、ルシフェラーゼ基質を添加する。Gagと宿主因子が細胞内で近接した場合、ルシフェラーゼの発光により赤色蛍光蛋白質が励起され、618nmのBRETシグナルが検出される。このシグナルを定量することで、Gag結合活性を示す宿主因子を生きた細胞を用いて網羅的に探索することができる。本年度はインターフェロン誘導性遺伝子800種についてGag結合スクリーニングを完了し、Gagの機能不全を誘導する宿主因子を複数同定した。現在その作用機序について解析中である。
2: おおむね順調に進展している
Gag結合因子スクリーニングのため、機能別に分類された遺伝子ライブラリーの作成を進めており、現在までに1300種を超える遺伝子ライブラリーを整備・構築した。これらのライブラリーには赤色蛍光蛋白質が付加されており、GagとのBRETアッセイが即時可能である。スクリーニング進捗率は50%を超えており、またこれまでにGagの機能不全を誘導する宿主因子を複数同定したことから、本研究課題の進捗状況はおおむね順調に推移していると考える。
構築済みの遺伝子ライブラリーを用い、Gag結合因子スクリーニングをさらに進める。最終的にGag結合活性を示した宿主因子群から、Gag機能を負に制御するものを抽出する。ここでは申請者が構築済みの、発光Gagによるリアルタイム機能解析系を用いることで、(1)ウイルス産生細胞におけるGagの集合(多量体化)、(2)培養上清中のウイルス量、(3)標的細胞への侵入効率の各ステップを、細胞が生きた状態で可視化もしくは定量的に調べることができる。これらの各手法は申請者によってすでに確立済みであること、また材料や準備状況も良好であることから、期間内にすべての過程を行える見込みである。
すべて 2019
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (2件) (うち国際学会 1件、 招待講演 1件)
Nature Communications
巻: 10 (1) ページ: 1844
10.1038/s41467-019-09867-7
Journal of Virology
巻: 93 (17) ページ: ee00381
10.1128/JVI.00381-19