HIV構造タンパク質Gagは、ウイルス複製環全体に関わる重要な因子であるにもかかわらず、感染細胞内における挙動が複雑なため、宿主による機能制御機構が不明である。近年Gagの機能を負に制御する宿主機構の存在も示唆されている。Gagタンパク質を機能不全にすることができれば、HIV感染拡大を完全に阻止することができ、魅力的な創薬標的となりうる。本研究では、複雑なGagタンパク質の挙動を反映した独自の生細胞アッセイ系を構築し、宿主によるGag機能制御機構を包括的に解明することを目指した。前年度に引き続いてBioluminescence Resonance Energy Transfer (BRET)技術を用いたスクリーニング系により、総計1600種類の宿主因子から生細胞内でGagと高親和性を示す因子を探索した。いくつかの候補タンパク質についてHIV分子クローンを用いて検証したところ、ウイルス粒子産生を阻害する宿主因子MALを同定した。MALはI型インターフェロン誘導性因子の一つで、MALを過剰発現させた細胞では、宿主細胞のエンドソーム内にGagが蓄積し、最終的にリソソーム分解された。MALのN末端領域はHIV-1 Gagと特異的に相互作用され、この活性は様々な動物種由来のMALでも保存されていた。また、HIVアクセサリータンパク質の一つであるNefがMALとGagの相互作用を阻害することにより、MALの抗ウイルス作用が部分的に減衰されることが判明した。本研究により、Gagの機能を負に制御する宿主機構およびウイルスがそれを克服するメカニズムが明らかとなった。本成果はヒトが本来有する抗ウイルス活性を利用したHIV-1感染症の治療法開発に寄与するものである。
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