研究課題/領域番号 |
19K07600
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研究機関 | 国立感染症研究所 |
研究代表者 |
片野 晴隆 国立感染症研究所, 感染病理部, 室長 (70321867)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | ウイルス / miRNA |
研究実績の概要 |
われわれはヘルペスウイルスやポリオーマウイルスのようなDNAウイルスがコードするマイクロRNA(microRNA, miRNA)が、特定のウイルス疾患で異常なほど多量に産生され、疾患形成に重要な働きをすること、一方で、異常に多く産生されたmiRNAが細胞外小胞(エクソソーム)に取り込まれ、細胞外へ排除される特異な仕組みがあることを示してきた。本研究は、ウイルスmiRNAの発現、作用を疾患ごとに明らかにすること、異常高発現するウイルスmiRNAを標的とした新規診断、治療法の開発、さらには、miRNAを利用した新しいdrug delivery system (DDS)の開発を目指す。本年度は、JCポリオーマウイルスが原因である進行性多巣性白質脳症において、JCポリオーマウイルスがコードするウイルスmiRNA発現の詳細な解析を行い、感染細胞内のウイルスmiRNAの局在をin situ hybridizationで明らかにした。進行性多巣性白質脳症の組織25例の解析の結果、ウイルスmiRNAのin situ hybridizationはJCポリオーマウイルスの免疫染色とほぼ同等の感度であり、診断にも有用と考えられる。さらにmiRNAが欠損する組み換えJCポリオーマウイルスを作成し、in vitroでの感染細胞での解析から、このウイルスmiRNAがウイルスの複製を抑制していることを明らかにした。レンチウイルスベクターによるウイルスmiRNAの発現系の構築も行い、大量発現系の構築とエクソソームへの取り込み機構の解明に有用なツールになるものと考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本年度は、ウイルス疾患の病型ごとに特異的に発現するmiRNAを同定し、同定されたmiRNAの機能解析を行うことに重点を置いた。進行性多巣性白質脳症はJCポリオーマウイルスが原因で免疫不全者に発症する重篤な神経感染症である。われわれはこの疾患の病理検体において、JCポリオーマウイルスがコードするmiRNAを標的としたin situ hybridizationを開発し、病理組織内において、JCポリオーマウイルスの感染細胞の核内にウイルスmiRNAが高発現することを明快に示すことに成功した。これまで、ウイルスmiRNAを組織内でin situ hybridizationで検出する報告は散見されているが、いずれも明確な局在を示すものではなく、本研究成果はポリオーマウイルスのみならず、他のウイルスも含めて、組織内でウイルスmiRNAの細胞内局在を明確に示した世界で初めての成果である。また、進行性多巣性白質脳症のサンプルから抽出したsmall RNAを次世代シークエンサーにより解析し、多くのウイルスmiRNAが報告されているmature miRNAの配列よりも1-2塩基の欠失や添加が起こっていることを明らかにした。ウイルスmiRNAの機能を明らかにするため、miRNA欠損組換えウイルスを作成し、ウイルス動態を観察したところ欠損株ではウイルスタンパクの発現が亢進し、ウイルス複製が促進された。このことから、JCポリオーマウイルスのmiRNAはウイルス複製を調整する機能があることが明らかになった。
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今後の研究の推進方策 |
ウイルスmiRNAが感染細胞で高発現する機構については不明な点が多く、その発現機構について、プロモーターの解析とともに、ウイルスmiRNAの発現は宿主免疫との相互作用で制御されている可能性があり、その宿主側因子を同定する。とくにインターフェロン、TLRなどの自然免疫に関する分子との関連を中心に、ウイルスmiRNAの発現を低下させる分子を網羅的に検索する。また、ウイルスmiRNAは細胞外小胞であるエクソソームに移行し、細胞外へ放出されるが、これまでのわれわれの研究から、ウイルスのmiRNAではその配列中にエクソソームへ移行させるための特異的モチーフ(エクソモチーフ)を含んでおり、これがバーコードの働きをしてエクソソームに移行させ細胞外へ放出されることを示しているが(PLoS One 2016、Cancers 2019)、本年度に創出したレンチウイルスベクターを用い、特定のモチーフを持つmiRNAを高発現させ、それらがエクソソームに移行するかどうかを観察し、エクソソームへの輸送に必要な分子(hnRNPA2B1など)との相互作用を検討するとともに、miRNAにエクソモチーフを導入し、特定のmiRNAをエクソソームに移行させることで、DDSの開発に結びつけてゆく。
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次年度使用額が生じた理由 |
JCVのマイクロRNAの解析から、予定していたことよりも新しい知見、成果が得られ、これらを確認するための追加実験等が必要であったために、今年度計画していた一部の実験が翌年度に持ち越された。翌年度にこれらの実験を行い、その費用を使用する。
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