エンテロウイルス71 (EV71)は手足口病の病原体であり、中枢神経合併症が公衆衛生上の問題となっている。組織特異的な宿主因子とEV71の相互作用が組織指向性に関与する仮説に基づき、モデル細胞株を用いて増殖性を評価し、ゲノムワイドノックアウトライブラリースクリーニングで宿主因子を同定、組織特異的な因子を見つけることを目指す。 昨年度までに、神経特異的なEV71感染に関連する複数の遺伝子候補が同定された。昨年度は遺伝子の解析を行い、2つに絞り込んだが、その後データの信頼性に疑いが生じたため、今年度は再解析を実施した。CRISPR/Cas9法で遺伝子のKO細胞を作製し、ウイルス感染後に生存細胞を調査して偽陽性を排除した。8つの候補遺伝子のうち、3つが偽陽性と判明し、残り5つの中で2つが他の3つより生存細胞数が多かった。重要と考えられる2つの遺伝子をヒト神経芽細胞腫SH-SY5Yに強制発現させ、ウイルス増殖を調査した。一つの遺伝子は増殖性が大きく亢進し、もう一方はほとんど上昇が見られなかった。KO細胞やレスキュー細胞でウイルス増殖を調査した結果、両遺伝子ともウイルス増殖に寄与していることが分かった。これらの遺伝子はウイルス感染・増殖サイクルの異なるステップに寄与している可能性がある。 この研究により、EV71感染に関わる遺伝子候補が明らかになり、今後の研究で組織特異的な宿主因子の同定に繋がることが期待される。今後は、これらの遺伝子がウイルス増殖にどのように関与しているかを詳細に解析し、感染症治療への応用を目指すことが重要である。また、遺伝子候補の機能解析を行い、ウイルス感染の制御や予防策開発に資する知見を得ることが求められる。さらに、これらの遺伝子が他のウイルス感染に対しても同様の役割を果たしているかどうかを検討することで、より広範な感染症対策への貢献が期待される。
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