高脂肪摂取による肥満では、脂肪組織が肥大化し、体重の増大とともに肥満にともなう糖尿病や高血圧などの病態を引き起こす。肥満では、脂肪組織が単に肥大化するだけでなく、脂肪組織中に免疫細胞が浸潤し、持続的に炎症応答が起きる慢性炎症を伴う。この肥満状態では脂肪組織内に集積したTh1 細胞が分泌したⅡ型のインターフェロン(IFN-γ) によって活性化された炎症性マクロファージ(M1マクロファージ)が集積し、肥満に伴った糖尿病や高血圧などの病態の増悪化にM1マクロファージが寄与していることが報告されている。そこで、本研究において脂質代謝によるマクロファージ分化と肥満の制御メカニズムの解明を行うため、脂質代謝酵素であるPIKfyveのマクロファージ特異的欠損マウスを用いて研究を行った。野生型及びPIKfyve欠損マウスに高脂肪食(High Fat Diet (HFD))を付加することにより肥満を誘導したところ、通常食(Normal Diet (ND) )では変化がなかった。一方、野生型マウスでは肥満を誘導できたものの、マクロファージ特異的PIKfyve欠損マウスでは肥満状態が抑制されていることが明らかとなった。また、脂肪組織内に浸潤したM1およびM2マクロファージを分離し、その割合を解析した結果、HFD食付加により、脂肪組織内のM1マクロファージの割合が増加したが、PIKfyve欠損マウスではM1マクロファージの増加が見られなかった。さらに、組織マクロファージを分離し、網羅的な遺伝子発現の解析を行うことで、マクロファージによる慢性炎症について検証した。その結果、野生型マウスではHFDの投与によりマクロファージの遺伝子発現がNCDに比べ顕著に増減する炎症関連の遺伝子が100程度あるが、それら遺伝子の発現の増減はPIKfyve欠損マウス由来マクロファージでは見られなかった。以上のことから、PIKfyveは肥満組織中のマクロファージのM1への分化を制御し、肥満の増悪化を制御していることが明らかとなった。
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