研究課題/領域番号 |
19K07609
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
菅野 雅元 広島大学, 医系科学研究科(医), 名誉教授 (40161393)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 自然免疫細胞 / アトピー性皮膚炎 / 飽和脂肪酸 / 母乳栄養 / ILC細胞 / 腸内細菌叢 |
研究実績の概要 |
我々は、母乳栄養母子の出生コホート研究(小児アレルギー、アトピー性皮膚炎:AD)を出発点として、 摂取栄養とアトピー性皮膚炎発症との関係を免疫学的に検証することを目指した。アトピー性皮膚炎をはじめとする主要なアレルギー疾患の免疫学的な発症機序として、今までは主に獲得免疫系の2型免疫反応に主眼をおいた形で理解されてきた。しかし、免疫系の入り口である自然免疫系に焦点を当てた研究はあまりされていなかった。特にヒト・コホート研究から始まる検討はほとんど行われていなかった。
母乳中に自然免疫系Dangerシグナル活性 (DAMPs活性)を検出した。母乳中DAMPs物質同定のため、質量分析機を用いたnon-targeted metabolomics解析を行った結果、相関が見られた物質は脂肪酸群であり、長鎖飽和脂肪酸群(LCSFA)に、DAMPs活性が認められた。LCSFA(パルミチン酸など)が、TLR2・NALP3を介してIL-1betaを産生するという報告があるが、アレルギー疾患発症との関係などは不明のままである。我々は、飽和脂肪酸を多く含む餌を妊娠hr-1マウスに摂取させ、その母乳を飲んだ子マウスが、AD様症状を呈する事が観察・再現できた。さらに自然免疫系の関与が重要であることがわかった。特に、自然免疫系細胞であるILCs細胞群に注目し, 消化管ILC細胞群の活性化、および、消化管ILC3細胞が活性化後、消化管から皮膚へ移行する初期反応が重要であることが観察された。またAD発症マウス腸内細菌叢の解析から、Lactobacillus と、Bifidobacterium属が優位に低下しており、また、Ruminococcus, 未分類属の Desulfovibrionaceae 科、未同定の YS2属が優位に増加していることを突き止め、これらの変化がAD発症と相関していることがわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今までに、母乳中の飽和脂肪酸摂取により、消化管に存在する自然免疫系細胞ILC3細胞が活性化し、消化管から皮膚へ移行することが観察できた。この現象が、2型免疫系細胞ILC2の活性化に先行して起きることから、AD発症においてその重要性が示唆された。また、ILC3細胞の遺伝発現解析(RNA-Seq)により、ILC3細胞の発生・分化に重要な遺伝子群の活性化を確認できた。ここまでは当初の予定していたプロセスである。その後、投稿論文の査読者からの指摘により、腸内細菌叢の解析を集中的に行った。特徴的な未同定腸内細菌属などを検出できた。現在、論文原稿を再投稿、査読中。
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今後の研究の推進方策 |
現在、投稿論文が、査読中である。しかし、コロナ禍のため(とEditorは言っていますが)、論文原稿を再投稿後、すでに約5ヶ月経過しておりいまだにEditorからの返事がない状態である。そのため、年度を超えてしまった。再三、Editorに催促をしているが、Editorial Officeからの、「申し訳ない」という返事が返ってくるのみである。今後は、腸内細菌叢に関する共同研究と、アレルギー疾患、アトピー性皮膚炎の遺伝子発現解析などのビッグデータの解析「ドライ・ラボ」の研究を主体に継続する予定である。とにかく、投稿論文のacceptに向けて追加研究を進める予定。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用金額が約114万円となったのには、下記の理由がある。(1)COVID-19により、投稿論文の査読・Editorial Officeの作業・手続きに異常なほど時間がかかっている。通常、1ヶ月程度の査読期間が、初投稿時に約4ヶ月程度、再投稿時には5ヶ月以上かかっている。初投稿後に帰ってきた査読者からのコメントにより、集中的に腸内細菌叢の共同研究を理化学研究所と行った。追加実験に何が必要になるか、不明であったために、研究費を使い切ることができなかった。また、当初計上していた論文掲載費も、次年度へと繰り越しになった。(2)COVID-19のため、各種国際学会は中止になり、国内学会も延期、または完全web参加であったため、出張費などはほとんど不要になった。そのため、計上していた当該経費も次年度へ繰越となった。(3)最終年度にあたる次年度は、腸内細菌叢とアレルギー発症に関する研究を発展させる。さらに我々の開発したアトピー性皮膚炎マウスモデル(ILC3の関与)が、他のマウスモデル(Filaggrin-KO, NC/Nga,などを含む) と比較して、最もヒトのアトピー性皮膚炎に近いことが、皮膚組織の遺伝子発現データ解析より示唆されているので、その解析をさらに進める。また論文の投稿・掲載料を計上している。Nature誌の姉妹誌のopen access journalであり、掲載料が少々高額(1,990USD)になるが、予算内でおさまる予定である
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