研究課題
アトピー性皮膚炎(AD)は、臨床的にも、免疫学的にも複雑な疾患である。また、母乳栄養とアトピー性皮膚炎発症に関しては、賛成(AD発症予防)、反対(AD発症誘導・促進)の両方の論文が報告されている。今まで、免疫学的には、ADは2型免疫反応が重要であり、その結果としてIgE抗体産生、皮膚の湿疹病変などのAD特有の症状を呈するようになると考えられてきた。我々の研究で、AD発症例の母乳中に「自然免疫系を活性化するDAMPs活性」を検出した。そこで検出したDAMPs活性の本体を突き止めるために、メタボローム解析を用いてその原因物質探索を行ったところ、長鎖飽和脂肪酸(C12-C20:LCSFA)であった。またLCSFAがどの様な免疫担当細胞(特に自然免疫系細胞)に関係しているのかを探索・同定し、AD発症機序の解明につなげることを目的とした。LCSFA(パルミチン酸など)を含む餌を母親に摂取させ、その母乳で育った子供マウスは、皮膚の湿疹病変を含む典型的なAD症状を呈した。この事より、いかに乳幼児期の摂取栄養が、その後の子供のAD発症に多大な影響がある事がわかる。主要なターゲットは消化管粘膜の自然免疫系細胞(自然リンパ球:ILCs)であり、その中でも特にILC3がAD発症のトリガーであることが判明した。このILC3活性化および、消化管から皮膚への移動が、2型免疫反応を起こす細胞群ILC2の活性化を引き起こしていると考えられる。母乳中の栄養・LCSFAの摂取による、消化管のILC3細胞の活性化・変化には、遺伝子レベルで、幹細胞・前駆細胞からILC3への分化・増殖を促進するような変化が起きている事が明らかとなった。さらに、腸内細菌叢も変化しており、摂取した母乳中のLCSFAと特徴的な腸内細菌叢(および、その代謝産物)の関係を同定した。
すべて 2021
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件)
Scientific Reports
巻: 11 ページ: 13109
10.1038/s41598-021-92282-0