研究課題
大腸炎・がん自然発症モデルマウス(T細胞特異的Rap1欠損マウス)は、生後数週間で、大腸炎を発症する。このモデルマウスではRap1欠損T細胞が腸管リンパ節において、腸内細菌の刺激により、Th17細胞へ分化し、血流を介して大腸粘膜固有層へ過剰にホーミングすることがわかっている。本年度は、このTh17細胞が実際に大腸炎発症に関与しているかどうかを、IL-17Aノックアウトマウスとモデルマウスを掛け合わせることにより検討した。IL-17A欠損モデルマウスにおいて、大腸粘膜固有層において、代償性にIL-17F産生細胞が増大しているにもかかわらず、大腸炎の発症が抑制されることが明らかとなった。また、Th17細胞の生成機構として、モデルマウスでは、生後4週以降、大腸粘膜固有層と腸管リンパ節においてRORgammat陽性の制御性T細胞とTh17細胞の割合が大きく変化することを見いだした。また、大腸へのエフェクターT細胞のホーミング亢進の機構として、Rap1によるalpha4beta7インテグリン活性化制御について検討した。2種類のalpha4bet7活性型特異的モノクローナル抗体(G3,H3)を作成し、Rap1-GDPとRap1-GTPがそれぞれ独立してalpha4beta7の活性型構造を制御していることを見いだした。G3が認識するエピトープはPSIドメインに存在し、H3が認識するエピトープはハイブリッドドメインに存在するが、Rap1欠損腸炎惹起性T細胞ではG3エピトープを高発現するが、H3エピトープを発現しておらず、H3エピトープの発現にはRap1-GTPが必要なことを明らかにした。
2: おおむね順調に進展している
申請者が独自に開発したT細胞特異的Rap1欠損マウスの発症機序の解明については、IL-17を産生するRap1欠損エフェクターT細胞にその原因があることを突き止めるとともに、そのTh17細胞増大の機構として、RORgammat陽性の制御性T細胞の低下が生後4週という早い時期から生じることを明らかにした。RORgammat陽性制御性T細胞は腸内細菌依存性に生成し、Th17細胞の過剰生成を抑制するのに重要な役割を果たすことが示されており、Rap1欠損により、腸炎惹起性T細胞が生成する機構を解明する糸口になると思われる。また、2種類のalpha4beta7活性型構造に特異的なモノクローナル抗体の作成に成功した。このうちモノクローナル抗体G3によって認識される活性型構造が、Rap1欠損によって誘導され、腸管毛細血管特異的に発現するMadCAM-1への接着活性が上昇していることを見出した。これらの知見は、大腸炎の新たな治療法開発へつながる可能性がある。
今後、Rap1欠損がRORgammat陽性の制御性T細胞の分化、機能、trans-differentiationの制御にどのように関与しているのかを解明することで、モデルマウスにおける大腸炎の発症原因であるTh17細胞の急激な増大のメカニズムを明らかにする。また、モデルマウスを用いて明らかになった病因について、IBD患者T細胞および摘出大腸組織を用いて解析を行い、IBDの発症原因の解明につなげる。また、腸炎惹起性T細胞において、G3抗体が特異的に認識するalpha4beta7の活性型構造が増大していることを見いだした。このG3抗体をモデルマウスへ投与し、大腸炎に対する治療効果を検討する予定で、新たな大腸炎治療法の確立へ貢献すると期待される。さらに大腸炎に関与する腸内細菌や代謝産物の同定を進めており、モデルマウスで減少している菌を用いたプロバイオティクス療法についても検討する予定である。
すべて 2020 2019
すべて 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 2件、 査読あり 3件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (2件)
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