研究課題
1)T細胞特異的Rap1欠損マウス(大腸炎モデルマウス)の大腸粘膜固有層において新生児期に生成するRorgammat陽性Foxp3陽性細胞の割合が低下していることがわかった。さらにFoxp3陽性細胞の抑制機能に重要なCTLA-4の発現が低下し、in vitroにおいて抗原提示細胞の共刺激分子CD80及びCD86を取り込む能力も低下していた。このため、大腸炎モデルマウスの樹状細胞上での共刺激分子の発現が上昇していることが明らかとなった。このため大腸粘膜固有層において病原性のTh17細胞が増大していると考えられた。2)Rap1欠損ナイーブT細胞では、CD3/CD28抗体架橋刺激よるカルシウムの流入の低下、NFATの核内移行が低下していたが、PLCgammaのリン酸化の低下は認められなかった。Rap1欠損によってZAP70及びSLP76のリン酸化及びマイクロクラスター形成などのproximal signalに異常はないが、カルシウムの流入などのdistal signalが低下することから、アクチン細胞骨格を検討したところ、actin fociと呼ばれる構造が形成されていないことがわかった。3)腸管バリア機能(ムチン層の形成、抗菌ペプチドの産生、タイトジャンクションの形成)の制御について検討するためのin vitroの腸管モデルシステムを確立した。また、大腸上皮細胞をFACSで回収する方法を開発した。その結果、Rap1欠損マウスの大腸上皮細胞は、炎症性サイトカインの働きにより、正常マウスと異なる抗菌ペプチドを産生していることがわかり、このために腸内細菌叢の変容が起きている可能性が示唆された。4)Alpha4beta7の活性型構造を検出する新規モノクローナル抗体を開発した。また製薬メーカーと共同で、新規Alpha4beta7抗体を大腸炎モデルマウスへ投与し、治療効果を評価した。
1: 当初の計画以上に進展している
大腸炎モデルマウスの発症原因として、Rorgammat陽性制御性T細胞の分化に低下があり、さらにCTLA-4の発現低下に伴う共刺激分子CD80・CD86のtransndocytosisの低下を見いだした。in vivoにおいてmigratory DCにおけるCD80及びCD86の発現亢進を確認した。制御性T細胞は、抗原受容体(TCR)シグナル依存性に分化するが、Rap1欠損はTCR distal signal(カルシウムの流入低下とNFATの核への移行)が低下することがわかった。さらにその理由として、免疫シナプスにおけるアクチン構造のうち、actin fociの形成が著しく低下していることを見いだした。また、大腸粘膜固有層への浸潤亢進はalpha4beta7インテグリンの構造が活性型となっていること及びalpha4beta7抗体によって大腸炎の発症は抑制されることを明らかにした。加えてIn vitro腸管モデルを開発し、IL-17によって大腸炎モデルマウスの大腸上皮細胞と同様の抗菌ペプチドの産生の変化が生じることを解明した。
1)大腸炎モデルマウスにおいて、大腸粘膜固有層におけるRorgammat陽性制御性T細胞の低下が大腸炎発症の原因であることを確かめるため、コンジェニックマウスのナイーブT細胞を移入し、発症が抑制されるかどうかを検討する。2)大腸炎モデルマウスにおいて、TCR distal signalの低下により、Rorgammat陽性制御性T細胞の分化及びCTLA-4を介した抑制機能が低下するため、大腸炎を発症することが判明している。そこで本年度はTCRシグナルの低下を招くRap1欠損によるActin fociの形成不全の分子機講を、アクチン細胞骨格制御分子群との関連を検討することで解明する。3)病原性T細胞では、alpha4beta7インテグリンが活性型構造になっていることがわかっている。alpha4beta7の構造変化がどのように制御されているかを明らかにするため、Rap1下流標的たんぱく質群の役割を検討する。4)腸管モデルを用いて、腸内細菌及びその代謝産物が大腸上皮細胞のバリア機能へ与える影響(抗菌ペプチド、タイトジャンクション形成など)や抗原応答制機能を検討する。また、大腸炎モデルで発症に関与する腸内細菌を同定し、腸管バリア機能への影響を検討する。
すべて 2020
すべて 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 1件、 査読あり 3件、 オープンアクセス 3件)
BMC Biology
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