研究課題/領域番号 |
19K07612
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研究機関 | 北里大学 |
研究代表者 |
片桐 晃子 北里大学, 理学部, 教授 (00322157)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | IBD / Rap1 / Treg / TCR / Actin foci / alpha4beta7 / microbiota / miRNA |
研究実績の概要 |
人の炎症性腸疾患(IBD)に類似した大腸炎を自然発症するモデルマウス(T細胞特異的Rap1欠損マウス)(モデルマウス)を用いて、IBDの発症原因について以下のことを明らかにした。1)モデルマウスでは、Rorgammat+ Foxp3+ 制御性T細胞の分化及びCTLA-4及びIL-10産生を介した抑制機能が低下する。Rorgammat+Foxp3+制御性T細胞における欠陥が、大腸炎発症に関与する可能性を、正常のナイーブCD4+ T細胞をモデルマウスへ養子移植することによって検討した。養子移植された正常T細胞はモデルマウスの腸管粘膜固有層において、Rorgammat+ Foxp3+ 制御性T細胞へと分化し、大腸炎の発症を抑制した。2)制御性T細胞への分化は抗原受容体(TCR)シグナルに依存しているため、Rap1欠損によるTCR distal signalの低下がその原因と考えられた。そのメカニズムを解明するため、TCR distal signal に重要なActin fociの形成を検討したところ、Actin fociの形成不全が生じるていることが判明した。その機構として、Rap1下流分子でアクチン制御分子のRIAM, lamillipodinは関与していなかった。一方、Actin fociの形成に重要なWASP及びHS-1の集積が認められないことから、Rap1はこれらの分子の局在制御に関与していることが判明した。3)病原性T細胞で認められる活性型alpha4beta7がどのような機構で誘導されているかを検討したところ、細胞骨格制御タンパク質FilaminがRap1-GDPによる抑制型の維持に関与しており、TalinはRap1-GTPによる活性型構造の安定化に寄与していることがわかった。4)大腸炎発症に関与する腸内細菌の特定するため、モデルマウスを無菌化し、候補細菌を投与したノトバイオートマウスを作製した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
独自に開発した大腸炎モデルマウスを用いて明らかにした発症原因についての研究成果をまとめて、Communications biologyに発表した。また、IBDの新たな治療法について、特許の申請を行った。
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今後の研究の推進方策 |
1)これまで、T細胞におけるRap1欠損が、Rorgammat+ Foxp3+ 制御性T細胞の分化及びCTLA-4及びIL-10産生を介した抑制機能の低下を引き起こすことを明らかにしている。その原因として、制御性T細胞への分化・機能発現は抗原受容体(TCR)シグナルに依存しているため、Rap1欠損によりTCR distal signalが低下することが示唆された。そこで、Rap1欠損がdistal TCRシグナルの低下を招くメカニズムを解明するため、Rap1がTCR signal に重要なActin の再構成を制御する分子メカニズムを解明する。2)Rap1欠損腸炎惹起性T細胞では、大腸粘膜固有層への浸潤に重要なインテグリンalpha4beta7が活性型構造となっていることを、活性型特異的なモノクローナル抗体を作製し、明らかにしている。このalpha4beta7の活性型構造がどのような機構で誘導されるのかを、細胞骨格制御タンパク質群の関与を中心に解析する。3)病原性T細胞を用いた網羅的なRNA-seq解析により、有意に増加するmiRNAを同定したので、このmiRNAのノックアウトマウスと大腸炎モデルマウスを掛け合わせ、miRNAの低下・欠損が大腸炎の発症に与える影響を検討する。4)モデルマウスを無菌化し、大腸炎発症したマウスでのみ存在する腸内細菌を投与したノトバイオートマウスを作製したので、大腸炎発症に関与する腸内細菌を同定する。
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次年度使用額が生じた理由 |
遺伝子改変マウスを用いた炎症性腸疾患の治療剤の開発のために、候補となるmiRNAの阻害剤合成や試薬代に費用を要することに加え、次年度は最終年度に当たり、研究成果をまとめて、論文を投稿するための投稿費が必要であるため。
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