網羅的なRNA-seq解析により、大腸炎を引き起こすRap1欠損T細胞(腸炎惹起性T細胞)おいて、有意に変化しているmicroRNAsを同定した。その中で、miR-150は正常T細胞において、無刺激の状態で他のmicroRNAに比べ50倍以上の高い発現量を示し、抗原刺激によってその発現量が低下することがわかった。腸炎惹起性T細胞において、miR-150の発現が有意に上昇し、抗原刺激によって低下しないことを、qPCR法及びノーザンブロット法 で確かめた。miR-150の高発現が大腸炎の発症に 関与している可能性を検討するため、miR-150のノックアウトマウスを導入し、T細胞特異的Rap1欠損マウス(大腸炎モデルマウス)と掛け合わせたダブルノック アウトマウスを作製した。その結果、ダブルノックアウトマウスでは、大腸炎の発症が完全に抑制された。このダブルノックアウトマウスにおいて、 Rap1欠損によるT細胞のインテグリンを介する接着低下は全く改善されておらず、大腸炎モデルマウスと同様に、リンパ節において顕著なリンパ球減少症が引き起こされた。しかしながら、リ ンパ球減少症でみられるLIP (Lymphopenia-induced proliferation)が、miR-150の欠損により抑制され、腸炎惹起性T細胞が増大しないことがわかっ た。一方、大腸炎モデルマウスで認められるRORgammaT陽性制御性T細胞の生成低下は改善されず、Th17細胞への分化は抑制されていなかった。これらのことから、miR-150の阻害は、LIPを抑制することによって腸炎惹起性T細胞の増大を阻害し、大腸炎の発症を阻止していることが明らかとなった。MiR-150の阻害剤は炎症性腸疾患の治療薬として有望であると考えられた。
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