研究課題/領域番号 |
19K07613
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研究機関 | 東邦大学 |
研究代表者 |
近藤 元就 東邦大学, 医学部, 教授 (20594344)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | タンパク質のアセチル化 |
研究実績の概要 |
この計画では、リンパ球の情報伝達系分子が刺激に応じてアセチル化されることに注目している。細胞質で生じるアセチル化が普遍的に生じるのであれば、伝達制御に必須の分子修飾であると期待できる。
T細胞株Jurkat細胞のT細胞受容体(TCR)刺激をモデルに細胞質での伝達分子のアセチル化が生じるかについて検討した。抗CD3抗体と抗CD28抗体とでJurkat細胞をTCR刺激すると同時に脱アセチル化の阻害剤刺を添加したところ、IL-2産生が減弱することが分かった。阻害剤の添加と刺激とが同時であることから、ヒストンの変化ではなく情報伝達系のアセチル化状態の変化によるものと考えた。刺激後の細胞から細胞質画分と核画分とを調製し、抗アセチル化リジン抗体で免疫沈降した。調製した画分を解析したところ、MAPキナーゼカスケードの構成タンパク質であるMKK4とJNKとがアセチル化修飾を受けていることが判明した。TCR刺激直後のタイムコース解析から、これらの分子のアセチル化に先立って、核内に局在しヒストンの修飾を触媒するアセチル化酵素CBPが細胞質へ輸送されている事が分かった。CBP局在変化の抑制条件下では、MKK4のアセチル化が検出されなかった。
細胞質に移行したCBPの意義を探索する目的で細胞質に局在可能なCBPを発現するマウスの作製を試みた。塩基配列解析からは予定どおりの発現ユニットが構築されていたが、得られた個体では目的のタンパク質が発現していないことが分かった。現在、発現ユニットの再構築に取り組んでいる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
T細胞の細胞質で生じるアセチル化の生体内での生理的意義を解析するために取り組んだ、ER-CBP発現マウスの作製に時間がかかり、予定どおりとは言えない状態である。
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今後の研究の推進方策 |
細胞質へ輸送されたアセチル化酵素CBPが重要な役割を担うと考えた。エストロゲン受容体(ER)とCBPの融合タンパク質の発現ベクターを構築し(ER-CBP)、Jurkat細胞へ導入したところ細胞質に局在するCBPが観察された。これまでの経緯から、①アセチル化はどのようにしてMKK4選択性をきめるのか、②アセチル化の効果はT細胞の機能や運命をどのように決定するのか、という課題を抜き出し以下のAimを設定した。これらをER-CBPの系を応用して明らかにしていく。 Aim1. MKK4のアセチル化機構の解析:JNKの上流キナーゼにはMKK7も知られているが、こちらはアセチル化されていないことが分かった。MKK4とMKK7は共通してアミノ末端側から、Dドメイン、触媒ドメイン、DVDドメインで構成されている。JNKと結合するDドメインにはリジン(K)やアルギニン(R)が多く存在する。MKK4のDドメインにはKが散在するがMKK7の場合はRに富む。MKK4選択性がDドメインのKリッチ領域に起因する可能性を検証する。Dドメインの交換やアミノ酸置換変異体を作製して仮説を検証する。 Aim2. CBPの細胞質内基質の探索:MKK4以外の基質を探索する目的で、Jurkat細胞とER-CBP発現Jurkat細胞からアセチル化タンパク質を調製し質量分析計で解析する。候補分子の機能と局在を指標にデータベースを作成する。核外に局在する情報伝達に関わる分子を優先して調査し、アセチル化部位、アセチル化による局在や機能変化を検討する。 Aim3. ER-CBP発現マウスをの作成と解析:細胞質で生じるアセチル化の生体内での生理的偽を明らかにするため、ER-CBP発現マウスを作製する。CD4-Cre下でER-CBPを発現させ、T細胞の機能変化を解析する。
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次年度使用額が生じた理由 |
計画時に予定した遺伝子改変マウスの作製に時間を要したので見込んでいた繁殖管理費用を消費できなかった。マウスの作製は進行しているので、2020年度分と繰り越し分を合算した予算は、マウスの繁殖や解析試薬の費用に充当する。
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