研究課題/領域番号 |
19K07613
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研究機関 | 東邦大学 |
研究代表者 |
近藤 元就 東邦大学, 医学部, 教授 (20594344)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | T細胞受容体 / T細胞情報伝達 / 分子修飾 |
研究実績の概要 |
T細胞は様々の受容体を発現しそれぞれの刺激を受け取っている。受容体の下流では、多くの情報伝達分子がリン酸化などの分子修飾を受けながら刺激を伝達している。アセチル化を念頭にしているのでアセチル基の供与体であるアセチルCoAの産生に密接なミトコンドリアに着目した。ミトコンドリアは抗原を認識したT細胞受容体(TCR)の細胞質領域近傍に集積することが知られているので、情報伝達分子の修飾へのミトコンドリアの関与を想定し解析した。
核内タンパク質SATB1は主にT細胞で発現する染色体構造調整因子である。これまでの検討でSATB1欠損T細胞ではミトコンドリア量が減少する事を明らかにしていたので、このT細胞を用いてミトコンドリアのTCR情報伝達への関与を調べた。TCRを架橋してT細胞を刺激したところ、SATB1欠損T細胞は正常(野生型)T細胞に比べて情報伝達分子(LckやErkなど)のリン酸化が減弱していた。ミトコンドリア維持に必須のタンパク質TFAMの欠損マウスから調製したT細胞(ミトコンドリア減少T細胞)を用いたアッセイでも情報伝達系の減弱が再現された。これらのことから、ミトコンドリアがTCR情報伝達に不可欠である事が示唆された。ミトコンドリアによる分子修飾がどのようにTCR情報伝達を調節するかについて検討した。SATB1欠損T細胞、およびTFAM欠損T細胞では、野生型T細胞の場合に比べて脱リン酸化酵素SHP-1の酸化修飾が減少していた。酸化修飾の減少に伴いSHP-1による脱リン酸化能が上昇することも判明した。ミトコンドリアが産生した活性酸素が酸化修飾に必須であった。
マウスの皮膚にピクリルを塗布するとT細胞性の接触過敏反応を誘導できる。SATB1欠損マウスやTFAM欠損マウスではこうした過敏反応が認められなかった。生体内でのT細胞応答においてもミトコンドリアの重要性が浮かび上がった。以上からミトコンドリアは酸化修飾調節によりT細胞の抗原応答性を制御している事が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
計画していた遺伝子改変マウスの作製と繁殖に時間を要したため。
本研究課題の申請書作成時には予定していなかったが、CBPによるアセチル化修飾以外の分子修飾と情報伝達制御に関する解析が大きく進展し(論文掲載)、その解析に注力したことが本計画の遅れにつながってしまった。
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今後の研究の推進方策 |
これまでに正常CBPの発現カセットとアセチル化活性を持たないCBPの発現カセットのそれぞれを作製した。これらを用いたトランスジェニックマウスを作製する。T細胞の成熟過程や末梢での抗原応答やT細胞生存等を調べ、このマウスの表現型を明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
一般的な実験試薬や消耗品への支出はほぼ予定どおりであった。見込んでいたよりもマウスの繁殖が進まず、動物への支出が軽減したため未使用額が生じた。
次年度は、マウス繁殖に関する費用や試薬購入、論文投稿に使用する予定である。
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