腸管粘膜に豊富に存在するTGF-βはIgAおよびIgG2bへのクラススイッチ(CSR)に必須のサイトカインであるが、同所に散在する腸管関連リンパ組織(GALT)ではIgA CSRが選択的、かつ効率的に誘導される。本研究では、「なぜGALTではIgAに偏向したTGF-β依存性CSRが誘導されるのか」を明らかにする目的で、GALTに固有の微小環境およびその構築に重要と考えられる樹状細胞に着目し、検討を試みた。 申請者はこれまでの検討から、パイエル板と盲腸リンパ節ではTGF-β依存性CSRの方向性が異なっており、これはIgA生産誘導に特化した樹状細胞サブセットの頻度と相関することを見出してきた。その一方で、B細胞におけるTGF-β受容体の発現量はこれらのGALT間で同等であったことから、CSRの方向性の違いはTGF-βの受容能に依存しないことが示唆された。 そこで本年度は、潜在型TGF-βの生産量およびTGF-βを活性化型に変換するインテグリンαvβ8の発現量を上記GALT間で比較検討した。その結果、潜在型TGF-βの生産量はGALT間で同程度であり、樹状細胞におけるインテグリンの発現量も同程度であった。このことから、これらのGALTを含む腸管粘膜では活性化型TGF-βの生産量が均一であり、TGF-β依存性CSRの方向性はTGF-β以外の因子によって制御されていることが推測された。 そこで、腸管粘膜に固有の因子を指標として、IgA生産誘導に特化した樹状細胞サブセットの誘導に重要な因子の探索を試みた。その結果、パイエル板に多く存在する因子Xがその候補であることを突き止めた。重要なことに、盲腸リンパ節の樹状細胞を因子Xで刺激することで、IgA生産誘導に特化したサブセットに分化することを明らかにした。因子Xは、TGF-β依存性CSRの方向性の制御に重要な樹状細胞分化を担うと考えられた。
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