生体内の免疫応答は緻密に調整されており、外来からの感染性病原体や、生体内に発生した異常な細胞、がん細胞などを検知、排除する一方、自己の細胞に対しては寛容を保つことで自己免疫疾患の発症を抑制し、免疫応答の健常なバランスを維持している。しかし、ひとたび人為的に免疫応答を変化させると、この緻密なバランスが崩れ、感染症や癌、もしくは自己免疫疾患を発症してしまう。本研究者は抗原特異性についての解析を通して、目的としない免疫応答へは影響を与えずに、目的とする免疫応答のみを抑制することが可能であることを見出した。従来、免疫抑制剤を用いた治療は、免疫応答が標的とする抗原に対しあまねく一様に抑制する性質がある。そのため、免疫抑制療法を受ける患者は易感染性となり、発がんのリスクが上昇する。そのため、経験に基づく治療薬の強弱調整をすることで、上記の副作用の発現リスクを最小限に抑える手法をとっている。しかし、意図する抗原特異的なリンパ球の作成方法、それらの生体内での機能については未だ不明である。そこで本研究では、抗原特異的な免疫抑制療法を確立すべく、抗原特異的なリンパ球を作成し、標的とする免疫応答のみを抑制できるかを明らかにすることを目的とする。マウス由来リンパ球から任意の抗原に特異的なリンパ球が作成可能か否かを解析した。結果、それぞれのリンパ球は相互に特有の受容体発現を示しており、非特異的なリンパ球とは有意に異なる応答性を保持していることが示唆された。試験管内、生体内における機能解析においても、目的とする免疫応答の抑制に、抗原特異性が関わっていることが示された。
|